小林

3-4x10月の小林のレビュー・感想・評価

3-4x10月(1990年製作の映画)
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無気力青年がヤクザとの抗争という妄想を通して能動的になる物語とみた。
控えの野球選手とはいえまるでやる気の見えない青年は、やっとトイレから出たかと思うと牛の歩みを崩さず、試合の行われているグラウンドへと向かってゆく。監督の意向により、代打として出場を果たすものの、バットを一度も振らずに見逃し三振。その姿は無気力と呼ぶにふさわしい。勤務先のガソリンスタンドにも遅刻した挙句、ヤクザに難癖を付けられてしまい、思わず手を出してしまって抗争へと発展、以降事態は悪化の一途を辿りながら、暴力団事務所にトラックごと突撃して一応の解決を果たした。画面は再びトイレに籠る青年を映し出している。そう、全ては青年の妄想だったのだ。青年はトイレから出ると小走りで試合の行われているグラウンドへと向かうのであった。
妄想オチという一般的に禁じ手とされる(夢とか妄想とかにするとなんでもありになるから)落とし方なのだが、物語をまとめきれなくて禁じ手を使った訳ではないため、これはこれで全然アリだとおもう。妄想オチ、言わば全てウソという物語ながら主人公の成長譚、それもセリフに頼ることなく微妙なアクションの違いによって表現してみせたことこそ、ビートたけしこと北野武の才華だろうと、私は考える。冒頭と終末の、主人公の成長を表した行動の違いとはなにか。歩く・走るという本当に些細な、見逃してしまいかねないアクションである。
小林

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