キノ

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデンのキノのレビュー・感想・評価

4.0
落涙最短記録 (開始 3 分 35 秒) と思われる.

本作冒頭は, テレビ放送の神回 10 話の延長. 「おばあちゃん, もっとあいた
かったんじゃないかな」と母を責める孫に, 私は胸の中で「いやそうじゃない.
会わなくても想いは伝わるんだ」と, テレビシリーズを思い出して, にじむ涙.
対落涙体制に移行すべくテレビ放送の録画再生を停止し, タイマー見ると先程
の記録.

落涙瞬発力が最強の本作. 「瞬発力」というのは単発ゲストキャラで泣かせる
力で, まさに神回 10 話もそうだった.  王道はメインキャラで泣かせる (例
「あの日見た花の名〜」) が, 本作はそうじゃないのが凄い. ただし凄いが評
価は 5 ではない. 結局は死別の涙で泣かせているので, 「オトナ帝国」での
涙に比べれば低評価になる.

本シリーズはゲストキャラの死別の涙で泣かせつつ, 積み上げるテーマ「愛」
を描き出す. テレビシリーズで描いたその「愛」が, 本作は時空を超えて伝達
され得ると描く. その伝達者がヴァイオレット. 目に見える「代筆屋」ではな
い.

目に見えるものは可変だ. 途中, 街路灯をつける仕事人が出てくるが,あの仕
事は電灯時代に消える. 同様に, 手紙は電話に代わり, ドールの仕事も消える.
ヴァイオレットも, もうこの世にはいまい. テレビシリーズから何十年も経っ
た世界から過去を見る事で, その郷愁も描く.

その郷愁を背景とし本作は, 不可視だからこそ不変な「愛」を描く. 手紙でも
電話でも, 時代を経て道具は変わっても, 道具の役目は変わらない. 対面でも
遠隔でも, 遠近で手段は変わっても, 自分の案件に同僚を巻き込んでも, 仕事
の役割は変わらない. 本作は, 時空を超えて愛を伝達するヴァイオレットの物
語だった. 神回 10 話の母の愛が娘の孫にも受け継がれ, そして孫は娘がした
くても出来なかった事を果たす.

だからこそ, ラスト, 目に見える変わらぬものが心に響く.

↓(以下ネタバレ)




↓「50年の手紙」への「返信」。サムアップ!

本作, 憎まれ役になった少佐の描き方は評価を下げている. まぁ少佐に憤慨す
ることで, ヴァイオレットに強烈に感情移入できた.

エンドの注目は, 台詞無しシーンのメッセージ伝達力. テレビシリーズを見て
いれば, 台詞が想像出来てしまうのが凄い. 「ヴァイオレット, 少佐に取られ
ちゃいましたね, 社長」という幻聴が聞こえた.

しかも、あの告白シーン.

愛の伝達人が『愛してる』を口に出せないのも良かった.

だから, 文字にまだ意義がある.

美しい.
キノ

キノ