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ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪のNMのレビュー・感想・評価

3.0
自分に自信のない一人の人間が、何を糧にして何を目指したか、参考になる。
それにこれ一本観るだけで現代美術への興味がぐぐっと湧く。
手を膝に置いてじっくり観たくなる作品。

ロンドン。働く女性自体貴重な時代。
ペギー・グッゲンハイムは、絵を買うようになりそれを飾る画廊を作ったりしているうち、芸術家との親交が生まれてきた。
芸術や社会を学び信念や自己を確立させていく。
母親の遺産こそあったものの画廊の建築に使い、活動自体は親族から特段の応援はなかったようだ。似たような活動をする親族関係者もおりバッティングしたせいもあり煙たがられた。

販売のほうは得意ではなかったため画廊は程なく閉め、今度は美術館を作った。
だがその頃戦争が始まる。
彼女はユダヤ系アメリカ人。それにナチの攻撃対象はモダンアートにも向いていた。モダンアーティストは収容されたりもした。
ロンドンからパリへ移った。
画商の多くを占めるユダヤ人はみなパリを去っており、芸術家は作品の売り先を求めていたところだった。破格で良いものが手に入る。
自分の命よりも作品を守ることに必死だった。と同時に亡命を求める芸術家の手助けもした。
自身も渡米。コレクションも持ち出せた。やがて芸術の中心はパリからニューヨークへと移っていった。

ペギーは自分自身をプロデュースした。外見に強いコンプレックスがあり初対面の人とはおどおどしてしまう。
だが芸術に触れると落ち着いて舌もなめらか。芸術によって自分を保った。

だが彼女は魅力的な存在。自分を知り年を経たからこその魅力があった。男性はそこに惹かれた。
尊敬すべき芸術家から地元の青年まで関係を持ち、自分を強く持っているから一人のパートナーに執着する必要もなかったのだろう。

自叙伝を書いた。男性遍歴を赤裸々に書いたところ社会は怒りを持って彼女をこき下ろした。
本人としては周りの男性芸術家と同じことをしただけ。そして彼女はそれを人に知られることを恥とは思わない。

帰欧することになるがイギリスでの評判は怖かった。
そこで長年憧れていたベネチアに居を構える。美術館も作り、また多くの芸術家と交流した。
今やベネチアは現代美術の町となり彼女の名はより確かなものとなった。

彼女の支援は直接的資金のほか、環境等を整えてあげることにもある。
使い途を効かず定期的に金を渡し静かな家を与えると、程なく才能を開花させたのはポロック。
彼女は見返りを求めていないので芸術家も仕事がしやすかっただろう。
数百ドルの絵が10億相当に値上がりすることも。

作品が大量に出てくるのでグッゲンハイム美術館を訪問しているかのような気分にもなれる。誰でも知っているような名前ばかり。芸術家本人の写真は映像も貴重。このために何度見返しても良い。
彼らのセリフも、現代の美術関係者らの解説も勉強になる。

彼女が受注したヘッドボードを初めて見たが驚いた。私のヘッドボードの概念越えていた。背もたれに使うものという認識だったが、もう浮いてるし届きもしない。壁飾りだ。
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