KnightsofOdessa

ドクター・スリープのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
3.0
[Eat well, Live longって味の素っぽい] 60点

キューブリック版『シャイニング』の威を借りながらキングが満足する映画などあり得ないわけで、キング絶賛という一言が私の心をかなり前からざわつかせていたし、鑑賞後も大部分では正しかったと思っている(私とキングの趣味は合わない)。まず前半からかなりスローペースで新概念"生気"や新たな登場人物の設定導入に忙しく、物語の中心に誰もいないことが多々あった。主役はダニーのはずで、彼が幼少期のトラウマからシャイニングを封印しつつそれを使わざるを得ない場面への苦悩を描くはずが、別の少女が登場することでダニーの苦悩描写も薄く、『シャイニング』が味付け程度の前日譚に変貌している。しかも160分近い上映時間の中で、ダニー、少女、シャイニングを狩る集団(ホテルの亡霊がホテルを出て追ってきているのかと思いきや完全な新キャラ祭)の三者がいい感じに出揃うまでに120分くらいかかってしまう。しかし、たっぷりと時間をかけた割には冗長なエピソードが性急に片付けられてしまい、薄味になっている感じは否めない。というか、そもそも映画『シャイニング』は屋敷の話、小説『シャイニング』は父と息子の話だったはずなんだが、本作品は超能力バトルの話になっていて、キューブリック版しか知らない人はただただ愚弄された気分になって終わる。ちなみに全く自慢にならないが、キングの小説はつまんなくて読みきったことがない。

そんなこんなで穴だらけ、冗長で性急という地獄のプロットはそっと置いとくとして、本作品が全編に渡って登場する妙なそっくりさんが象徴するような『シャイニング』模倣映画になっているかと言われるとそういうわけでもない。というか逆にそういう枠組みを理解した上で、シーケンスを丸パクして利用しているとこなども見受けられ、フラナガンなりにキューブリック版を脱構築しようとしているのは理解できた。終盤の展開では脱構築を利用した遊びが成功している場面もあり、題名で遊んだ大傑作『10クローバーフィールド・レーン』を思い出してしまった。ネタとして扱われることにはちょっと負の感情は抱くが、一本取られた感じ。そこは上手かった。

私は原作のファンでもキングのファンでもないので、本作品はファンメイドの二次創作だと思うことにした。そう思うと足りない部分やシーケンス丸パクもフラナガンに尊重する意志や嫌味のない尊敬を感じるので許せる気がした。キューブリック版に近寄ろうとはしているが決して越えようとして良くないハッスルをしてはいないのが一番のポイントか。だが特に必要ない続編は、結局"伝説のヒーローも実は人間でした"みたいな最近のリブート系映画にありがちな展開をしっかり踏襲し、マイノリティであることを恥じるなというメッセージに帰着してしまう。本編ではそんなこと全く匂わせもしなかったのに、最後で取ってつけたようにそんなこと"言わせる"必要あるんかと思いつつ、それがダニーの人生基1980年から現代に至るまでの社会情勢の変化とも捉えられるわけで、40年空いた分の伏線回収なのかもしれないとも考える。全体的に悪くはない映画だ。私は0点にするつもりで乗り込んでいるので、60点でも及第点だと思うよ。

あと、キューブリック版『シャイニング』でダニー少年を演じていたダニー・ロイドが"観客"役で出演していたらしいが…分からん!もしかして、ガラガラヘビのとこ?→野球観戦してたときに隣に座ってたらしい。気付けるかよ。
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