たく

ある女の愛のたくのレビュー・感想・評価

ある女の愛(1953年製作の映画)
3.7
町医者の女性が自分の仕事と男性との愛のどちらを選択するか葛藤する1953年のフランス映画。最後の最後まで主人公がどう決断するか分からないという筋書きにハラハラした。この「仕事一筋の女性に男性が愛想を尽かす」というパターンは「フリーダム・ライターズ」など良く描かれるプロットで、こないだ観た「格子なき牢獄」(1938年)もそうだったし、仕事と愛情の間で葛藤する強い女性像というのは昔からあるんだね。ジャン・グレミヨン監督作は「曳き船」、ミシェリーヌ・プレールの出演作は「賭けはなされた」「まぼろしの市街戦」を観てた。「夏の嵐」「テオレマ」のマシッモ・ジロッティが、愛するがゆえに苦渋の決断をする役を好演。後半に出てくる手術シーンはすごい迫力だった。

フランスの離島に赴任してきた若き女医のマリーが、最初は村社会特有のよそ者扱いをされつつ、医者としての手腕を認められて次第に周囲に受け入れられていく展開が微笑ましい。この島に建築技師としてやってきたアンドレがマリーを見初めて熱烈に求愛していく中で、もうすぐ他の仕事で旅立つアンドレについていくか、この地に残って医者としての道を続けるかの選択を迫られるマリーの葛藤が描かれる。彼女にある決断をさせるきっかけとなるのが、この地で何十年と教師を続けてきた老女の死に際して葬儀で誰も涙を流さないことで、序盤に登場したヤギがここで回収されるという不思議な伏線の貼り方だった。

女はいい相手をみつけたら仕事を捨てて家庭に入るのが当然と思ってるアンドレに対して「時代遅れ」という言葉を投げつけるマリーに、女性の自立問題が昔からテーマになってたことを改めて思い知らされる。マリーが灯台の急患を手術することがアンドレの考えを改めさせるきっかけとなるんだけど、手術の手元を克明にみせるシーンがすごい迫力で、この場面を本作のクライマックスに設定してることが良く伝わってきた。タイトルからしてマリーが最後には愛を選ぶだろうと思ってたら、まさかのアンドレの決断がほろ苦い幕切れを導くところに男の真実の愛が描かれてジーンと来た。
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