三樹夫

アルキメデスの大戦の三樹夫のレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
2.0
数学の天才が海軍の軍艦建設派の建設費用見積の不正を暴き、会議で相手方を論破して軍艦建設を阻止しようとする話。かなりボロクソに言われる山崎貴だが、この映画は彼のフィルモグラフィーの中で面白い作品としてよく挙がる。
冒頭の5分ぐらいの海戦シーンはCGいいやんとこの映画に期待を持たせるものであったと思う。『タイタニック』っぽさがあったり、大作洋画のCGに比べれば見劣りするかもしれないが、私は素直にこの映画に期待した。それ以降は戦闘シーンはなく会議か不正暴きのミステリーとなるが、演出がダメ過ぎて2時間ずっとクソ。ガリレオや半沢の海軍版をやろうとしているも、監督の演出力が全く及んでおらず退屈な2時間が続いて終わる。企画通す時にガリレオや半沢の海軍版ですよみたいな説明してそう感プンプンだが、他にも『風立ちぬ』やシンゴジも入っていると思う。
またやたら大和を神格化しており、大和は日本人に敗戦を自覚させるための依代ってアホかとしか思わん。どんだけ大和に幻想抱いてるんだよ。大和には多くの乗組員がいるのだがその人たちが死ぬことにはどう思っているのか疑問だが、おそらくそこのところには意識はいっていないだろう。

大声で叫べば熱演であり作品としての盛り上がりと思っているのだろうか、役者がずっとギャーギャー喚いているだけの映画だ。演技が2時間ずっと一本調子で飽きる。いかにも邦画というようなオーバーな演技がずっと続く。主人公の数学の天才描写も、「美しいものを見ると僕は計りたくなるんだよ」というもの凄く恥ずかしい台詞による変人演出か、画面に数式が浮かぶ演出か、周りに天才だ天才だと台詞で言わせる演出しかない。こんなもんただのなろう作品やん。小日向文世が部屋に戻ってくるというサスペンス演出も下手だった。主人公の下宿先に山本五十六が来て管理人のおばさんがワーワー慌てているシーンも酷い。
演出のダメさもさることながら、監督の物事に対する解像度も低いように思う。会議と言えば大声で怒鳴り合っている、ビックリすればギャーギャー慌てふためくという、そういう捉え方しかできない解像度の低さがそもそもダメ。また心の中で思っていることを全部口にして言っており、観ていてバカにされているような気すらしてくる。
ただ思ったのは、演出力のなさを一番痛感しているのは山崎貴自身であるように感じた。自身の演出力のなさを自覚しているから、役者にギャーギャー喚かせるし心の中で思っていることを全部台詞して言うというやり方をしているように思う。人間の演出がつけられないことを自覚してるから、叫ぶか全部台詞にして言うかしてなんとか尺を埋めているのではないか。

役者を単に撮っているだけで、ただ叫んでいるだけの会議シーンは緊迫感もなにもなく、役者の演技の酷さが浮き彫りになるばかりで、この映画に出演した役者は思いっきり損をしている。橋爪功陣営と國村隼陣営をパンで横に振って行ったり来たりに映すシーンは苛立ちすら覚えた。会話の応酬の表現のつもりか?役者の演技に演出もつけられてないのにこんなんやっても観てて鬱陶しいだけだから素直にカット割りゃいいのに。思考停止の既定路線と権威主義的パーソナリティで、無能なおっさんがなぜか発言権を持ち聞く耳持たずで偉そうに喚いて間違った方向へ突き進むいかにも日本の会議という演出は出来ておらず、その場にいる役者がそれぞれ喚いているだけの会議シーンは本当に酷く、しかもクライマックスも会議シーンとか地獄か。
監督の演出力のなさで役者が損をしている部分は多分にあるが、一方でCMタレントの役者ごっこでもあると思う。数学者 in 戦争映画は『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』があるけど、日本の役者はこういうちゃんと作られた映画観て自分のやっていることや出演している作品に絶望感とか覚えたりしないのだろうか。あくまで金のためとわりきっているのかな。つーか柄本佑は映画好きでヌーベルバーグとか相米が好きなのにこんな映画であんな演技してていいのか。

半沢の監督も絶賛される演出力ではないが、役者の大仰な演技をこれ完全にお笑いじゃんと自覚し笑いとして打ち出してコメディシーンとしてちゃんと成立させている、笑いのセンスは確かにあった。ただ山崎貴にはユーモアセンスも感じられない。会議で互いの下半身事情暴露合戦の笑いはスベっていた。半沢の監督が作った『七人の会議』にも小日向文世が部屋に戻ってくるのと同じサスペンス演出があり、野村萬斎がミッチーと朝倉あきの元に迫ってきてハラハラさせる演出があるのだが、全く同じ演出のシーンでも『七人の会議』の方が上手かった。ユーモアセンスない、解像度低い、演出力ないと、私には山崎貴を褒める言葉を思いつくことが出来ない。強いて言えば、CGは頑張っているよねとかになるのかな。
山崎貴が推す映画リスト的なのを見たことがあるが、ウェルメイドな映画が好きなのは間違いない作品群だった。感動する映画が好きなんだなというのも思った。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『フォレスト・ガンプ/一期一会』も好きみたいだが、ただこの人って『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にある嫌なマッチョ主義や、『フォレスト・ガンプ/一期一会』は公民権運動などの監督の保守的だったり体制翼賛的思想に合わない都合の悪いことはオミットされているということに気付いてないような人よね。感動的にシュガーコーティングされた所しか見てない、そんな底の浅さを感じてしまう。ユーモアセンスなさ、解像度の低さ、演出力のなさはすべて底の浅さに起因するように思う。CGだけに専念するというのじゃだめなのかな。
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