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アルキメデスの大戦のカポERRORのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.4
【深謀遠慮】
 深く考えを巡らし、のちのちの遠い先の
 ことまで見通した周到綿密な計画を
 立てること。また、その計画。
 ▽「深謀」は奥深い見通しをもったはかり
 ごと・考え。「遠慮」は、ここは将来に
 ついて考え巡らす、遠く先のことを
 おもんぱかる、よくよく考える意。
  (三省堂 新明解四字熟語辞典より)

さて、本作で深謀遠慮を巡らしたのは、山本五十六か?平山忠道か?
いやいや、本作における最高の策士…それは他でもない山崎貴監督である。
その老獪なキャスティング…まさに天才だ。

✤✤✤

『アルキメデスの大戦』は、山崎貴監督が手掛けた『ゴジラ -1.0』の前日譚…( ・᷄ὢ・᷅ )ウソツケ
それは冗談だが、監督が『永遠の0』と本作『アルキメデスの大戦』を作る過程で培った第二次世界大戦への史観が、『ゴジラ -1.0』の造形や演出を生み出したのは想像にかたくない。
『アルキメデスの大戦』では、冒頭から大迫力の戦艦撃沈シーンで白組VFXの底力を見せつけてくれる。
そして山崎貴の、尊い人命を蔑ろにする日本軍への痛烈なアンチメッセージが、映像として目に焼き付けられるのだ。
しかし、驚くことなかれ、本作ではその後ド派手なVFXどころか、戦闘シーンが一切登場しない。
そう、本作は日本海軍における新型戦艦建造費の見積額捏造を暴こうとする若き天才数学者 櫂と、“大艦巨砲主義派”嶋田海軍少将・平山造船中将との頭脳戦を描いた作品なのだ。
…と、これだけ聞くと実に地味で退屈なストーリーを想像してしまうかもしれない。
しかし、それは大きな間違いである。
本作は、全編129分間全く目が離せない、邦画屈指の大どんでん返し映画なのだ。
続きのある原作漫画を大胆に改変し、この尺で完結させた脚本には拍手喝采である。
そして何より、この私を唸らせた”計算されたキャスティング”にスタンディングオベーションを贈ろう。

以下はネタバレになるため、未見の方は本作鑑賞後に閲覧頂きたい。


……以下ネタバレ注意……

①舘ひろし(山本五十六)
私は、幼少の頃からずっと”舘ひろしは悪人顔”だと思っていた。
それなのに、あぶ刑事やハズキルーペ等…彼が演じる役はやたらと柔和且つコミカルな役ばかり。
いつしか私自身も彼のそんなイメージが脳に刷り込まれていたのである…あれ程の悪人顔なのに。
そんな彼に、山崎貴は山本五十六を演じさせたのだ。
誰もが彼を主人公 櫂の良き理解者だと信じたであろう。
よもや…いや、これ以上は言うまい。
何という狡猾さ。
まんまと騙された(∩°̀‎‎‎Ⱉ°́∩)チックショォォォ~~~!!

②田中泯(平山忠道)
本作で櫂の宿敵・ラスボスとして描かれる平山だが、ラストで彼のとんでもない真意が明かされる。
作中最大のギミック。
貴方はご存知か?
田中泯の本業、元々は俳優ではなくダンサー・舞踊家なのである。
そんな彼に、櫂も我々もまんまと”踊らされていた”のだ(∩°̀‎‎‎Ⱉ°́∩)チックショォォォ~~~!!

③浜辺美波(尾崎鏡子)
主人公 櫂は、美しいものを見ると巻尺で寸法を測らずにはいられないという癖がある。
開始16分30秒。
櫂は料亭で着物姿の芸者に「僕は美しいものは測らないと気が済まないタチなのだ〜」と言い寄りながらおもむろに彼女のバスト(胸囲)を測る。
開始23分10秒。
和室に目を瞑って横たわる浜辺美波演じる尾崎鏡子。
櫂は無防備な彼女に近づくと「美しい…完璧なバランスだ…」と言いながら巻尺で…顔を測り出す。
そう、ここでは何もやましい事がないことを示すため、決して先の芸者のように胸囲を測ってはならないのだ。
胸ではなく顔を測定するための人選…。
浜辺美波というキャスティングは、計算されたものだったに違いない。



如何かな。
山崎貴という男…櫂直や平山忠道をも凌駕する天才策士であろう。
本作未見の方は、御鑑賞の上、その知略・謀略の数々を是非堪能頂きたい。
『アルキメデスの大戦』は現在、U-NEXT、TELASAで見放題配信中。
プライムビデオ、その他サブスクではレンタル配信中。

追伸)
大日本帝国海軍大臣の大角岑生を、『スネークマンショー』』『ベストヒットUSA』でお馴染みの小林克也に演じさせるというのも荒業だ。
彼は1982年に世に出した楽曲「うわさのカム・トゥ・ハワイ」で、移民の苦労や真珠湾攻撃など、反戦歌的内容を二世訛りの和製英語を用いてラップで自虐的に歌っている。
皮肉が過ぎる!
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