あーさん

アルキメデスの大戦のあーさんのネタバレレビュー・内容・結末

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

もっと戦争について考えよう!2019.第1弾

毎年8月には戦争映画を観ることにしているのだが、今年の夏はミュージカル強化月間が長引き、観ないまま9月になってしまった。
そんな折今作を選んだのは、Filmarksでの評判が良く、菅田将暉主演で数学者の役、というのがひと味違った視点で見せてくれそうだったから。
田中泯の演技が素晴らしい、との声も多く、そちらも期待して。

山崎監督の"ALWAYS 三丁目の夕日"は好きなのだけれど、"DESTINEY 鎌倉ものがたり"ではあまりにも安っぽいCGに唖然としてしまったし、同時期公開の作品の評判が酷く、そこは気になりつつ。。

冒頭、やはりまんまCGの戦艦大和にムムッ…となるも、全編ではなかったのでそこはテンポの良さで乗り切ったかな。
船が沈んでいく様は、さながらタイタニックの沈没を思い起こす。
描写も細かく、乗組員たちの逃げ惑う姿、全身に傷を負って痛々しく沈んでいく大和の姿は、日本そのものと重なってとても胸が苦しくなった。

櫂直(かい ただし)は天才的な数学者。
東京帝大の学生だったが、理由あって中退していた。
海軍少将 山本五十六に類まれな数学的能力を見出された彼は、主計少佐として海軍に入隊する。
そこで、海軍上層部の超大型戦艦大和の建造計画を阻止すべく、期限までに提示された見積もり額を正確に計算し、その裏に隠された不正を暴くというミッションを担うのだった。。

一見頑固で理詰めな櫂だが、その実直さ、地道な作業の積み重ねが真実味を帯びて目の前に設計図として現れると、そこで初めて理系頭脳の素晴らしさを実感する。
しかし決して堅物ではないのは、お座敷遊びをやりながら、何でも数学的なアプローチを試みる所からもわかる。

"美しい物は何でも測ろうとする"その姿勢が、やがて大きな力を発揮して、巨大な山をも動かそうとした。。

しかし、、
国を動かすのは、そう簡単ではない。
正体のわからない大きな時代のうねりのようなものに対しては、到底個人の力では抗いきれない、、そんなことを思った。

櫂と対極にいたはずの田中泯演じる平山忠道 造船中将の先に見えていたもの。
彼だけでなく、見る人が見れば戦局がどうなるのか、本当はわかっていたのだろう。

重々しい戦争映画と比べると、今作はそこまで重くない。あくまでも、数学を使って戦争を食い止める、という発想なので、基本的に室内でああだこうだと言い合っているシーンが多いからだ。
しかし、おそらく戦争中の大事な決定事項の多くが、密室の中で限定された者達の話し合いだけで決められていたのかと思うと、然もありなん、これも戦争の一つの姿だ。最もこれはフィクションだけれども。。

柄本佑と菅田将暉のコンビが良かった。
観ている者と同じように、櫂の凄さを柄本佑演じる田中正二郎 少尉がだんだん認めていく所が絶妙だった。
お座敷の女将役 角替和枝は今作で息子 柄本佑と親子共演。もうこの世にはいらっしゃらないんだなぁ…と思うと、胸がキュッとなった。

田中泯の静かだけれど、力強い演技。
やはり素晴らしかった。
長生きしてほしい役者さん。。

浜辺美波、名前はよく目にするが作品を観たのは初めて。控え目なのに、強さを感じさせる演技が良かった。

そして、我らが舘ひろし!笑
お茶目な山本五十六、、ってどうなの?と思ったけれど、ちゃんとそれらしくハマっていたように思う。
作品によって見え方の違う山本五十六という人物についても、また改めて本や映画で知りたくなった。

脇を固めるのは、橋爪功、國村隼、小日向文世ら一癖も二癖もあるベテラン俳優陣(そこに何故か小林克也…)。
鶴瓶師匠も関西勢で頑張ってた。
波岡さん発見!

しかし、"七人の侍"の後に観たせいだろうか、やはり作品全体を通して重みが足りない、、というのは否めない。
戦中・戦後日本を生き抜いた俳優達の顔と余りにも違うのは仕方ないのだけれど。。

最初に"昭和8年、日本が国際連盟を脱退して孤立…"等どういう状況で、というナレーションや年代についての記述があるので、背景はわかりやすかった。
今、国際的に孤立している国のことを思った。日本にもこんな時代があったのか、と改めて。あれこれと考えるきっかけにはなると思うので、戦争を知らない世代の人たちには特に観てほしい。

知らないといけないことを知らなさ過ぎる自分は、8月だけと言わずにこれからも定期的に戦争映画を観ていこうと思う。

戦争がどうやって始まり、どうやって終わった、終わらせたのかを知ること。

それは、やはり一番大切だと思うから。
あーさん

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