LalaーMukuーMerry

アルキメデスの大戦のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.2
戦前の1933年、帝国海軍の中では、次につくる艦船は戦艦か航空母艦かで深刻な対立が生まれていた。空母派の山本五十六は、東大数学科をやめたばかりの天才的数学者カイ君(主人公、=菅田将暉 )に白羽の矢を立て、戦艦派の不正を暴こうとする・・・
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うーむ、意表をついた舞台設定と特異キャラ! これらが相まって予想よりずっとずっと面白かった。ミッションが明確で観客にしっかり伝わるし、ダメか!、いやいや・・・と、どんでん返し風にストーリー展開していく、よ~く練られた脚本で惹き込まれた。
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お金の不正を暴くのに会計監査員でなく数学者か! 会計監査は事後のチェックだから、計画段階で不正を暴くにはカイ君のような特異キャラが必要だったのかもしれないな。
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でもわたし的には、カイ君は全然数学者ではない(そこ?!)。数学というのは、数、代数方程式、図形、空間、集合・・・とか、それ自体抽象的な概念体系の中の普遍的真理(定理)を探求するという、高度に抽象的な学問だ。数学者とは数学をやる人物であって、計算が恐ろしく早かったり、難解な数式を上手く扱えれば数学者というわけでは決してない。
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数式なら数学者以外にも多くの人が普通に使っている。経済学者は沢山の経済指標を分析して数式を使って経済成長率を予測する。新型コロナウィルス対策専門家チームでも感染者数の変動データを駆使して実効再生産数を算出し、人との接触を何割減らせば今後の感染者数はこうなると数式を使って予測をした。こういう人たちは一見難解な数式は使うが決して数学者とは言わない。
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彼がやったのは、使う鉄の総量から単位重量あたりの造船コストを算出するかなり正確な近似式を、過去の事例を基に導いたということであって、これはたぶん造船学とか造船経済学とか(そんな分野名があるかどうかも知らないが)に属することで、決して数学ではないのです。(式を導く途中で数学的定理を発見して、それを使ったというなら話は別だが・・・)
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目標の重要会議になんとか間に合って、カイ君たちは導いた近似式の正確さを見せつけて、戦艦派をギャフンといわせた・・・
が、開き直った相手方の論理がまた凄い。「敵を欺くにはまず味方から」
結局この論理にあらがえず、戦艦派勝利で決着してしまう…(おいおい、これがまかり通るなら、国家予算は嘘だらけと言う事になってしまうぞ!)
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と思ったら、カイ君が戦艦の設計強度に欠陥があると技術論の方から攻めたてると・・・
なんと戦艦設計者の平山中将は技術オタクのような人物で、カイ君の指摘に大変な動揺をし、すごすごと退場。 やったー、空母派の最終勝利!!
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でもまてよ、このままいくと史実に反することになってしまうぞ。戦艦派がつくろうとしていたのは、間違いなくあの「戦艦大和」なのだから。
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ここから、戦艦大和がつくられることになったいきさつは、映画を見ていただきましょう。(いかにもその後の歴史を知っている脚本家が、登場人物たちに語らせたその論理は、現代人には説得力あるものでしょうが、当時こんなことを口にできる人間はいなかったはずと思います)
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そして映画冒頭の戦艦大和が撃沈されるシーンへとつながる。ここは名作「タイタニック」を思い出させる迫力あるCGで、素晴らしかったです。