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殺人者にスポットライトのryosukeのレビュー・感想・評価

殺人者にスポットライト(1961年製作の映画)
4.0
「顔のない眼」と同様、屋敷を魅力的に用いたゴシックホラー調の作品。本作は城自体が主役と言える面もあり、音と光で装飾された城は中世の伝説を再びその身に宿すことになるのだが、このシーンが実に素敵。現代の登場人物たちの人間関係が、城を舞台とした伝説の物語に取り込まれていく脚本も(先が読めるけど)まあ面白い。
画面外の音が人物に驚きを齎す描写が繰り返される。動物の鳴き声や風の音がムードを作り出すのも「顔のない眼」と同様。切り返しの後に襲いかかってくるフクロウも、「顔の〜」の殺人犬エンドを思い出させる。
ショーのために導入された装置に"son et lumière"の文字が書いてあるが、正に映画の二大構成要素である音と光を効果的に使用して魅せてくれるのは好印象。スピーカーから針の外れたレコードの音がループし、異様な雰囲気を増幅させる。
死を悟った老人がマジックミラーの向こう側に潜み、死体となっても家族を見つめ続けるというアイデアが素晴らし過ぎるな。これに限らず、本作では一方的に見つめ、監視する者の描写が繰り返され続ける。
一瞬だけだが、乗馬が趣味の女性が下馬する瞬間の、躍動感に溢れた伸びやかな動きが何故か印象に残った。
冒頭の暗い屋敷の全景には重厚感のある音楽が重なりそうなものだが、明るい曲調がミスマッチを生み出し、ラストも唐突に愉快な調子のシャンソンが流れ出す。「顔のない眼」でも主題とそぐわないムードの劇伴が流れており、この点は作家性だろうか。
ラストは主人公たちの厳粛さのかけらもない葬式を、軽い曲調のシャンソンの古き良き葬式を讃える歌詞で皮肉って締めるのだが、え、そんな着地?とちょっと笑ってしまった。確かに古風な城がミスマッチな装置で侵され昔からのメイドは出て行き、家族もかつてとは違い相互に不信感を持つようになってしまったというストーリーと関連のある主題とは言えるんだろうけど...。ラストは若干ヘンテコだがこれも味だと言えるし、「顔のない眼」も本作も手堅い作りと独特の魅力を両立した良作だったので、ジョルジュ・フランジュは機会があれば是非他作品も見たい監督になった。
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