LalaーMukuーMerry

ふたりの女王 メアリーとエリザベスのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

4.1
日本の戦国から安土桃山時代、信長・秀吉・家康らリーダーとその周辺の人間ドラマはとても面白い。ほぼ同じ時期、イギリスのヘンリー8世からエリザベス女王にかけての王室の人間ドラマも、やはりとても面白い。大陸の東と西の島国で、それぞれ独特の歴史を紡いでいた2つの国が、同じ時期に似たようなドロドロした人間模様が繰り広げられて、後世の人々に語り継がれることになる。これは偶然にしては出来すぎな気もする・・・ 
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スコットランド女王メアリー1世(=メアリー・スチュアート)とイングランド女王エリザベス1世。同時代に敵対する隣国の女王となった二人の物語。といってもこの作品の主人公は明らかにメアリー・スチュアートの方。彼女はおそらくイギリスでは最も有名な歴史上の女性の一人でしょう。だから彼女の波乱の人生についてある程度知った上で見ましょう(見た後でwikiなどを読んでもいいですが)
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この時代各国の王室は政略結婚でつながっていたから、この二人も赤の他人ではない。メアリーとエリザベスの関係は、作品中ではいとこcousinと呼んでいたが系譜を見ると正確にはいとこではなく、いわゆる「いとこ違い」(5親等)。エリザベスから見ればメアリーは父方の従兄(父の姉の息子)の娘、メアリーから見ればエリザベスは父方の大叔父(父の母の弟=ヘンリー8世)の娘に当たる。エリザベスの方がメアリーより9歳年上。
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メアリーは今の価値観で見るとよく言えば愛に生きたともいえるし、悪く言えばあまり政治に関心がなく相当な悪女とも解釈できる。史実をベースとしつつも、歴史の闇に埋もれた真実(殺人事件の真犯人が誰なのか、宮中の権力争いの駆け引き、男女関係のエピソードなど)をどう想像して描くか? それが歴史ドラマの面白さでしょう。
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この映画のクライマックスは、二人の女王の出会いの場面。史実としては、この出会いはないのだけれど、このシーンを入れたのはとても良かったと思う。メアリー役のシアーシャ・ローナン、エリザベス役のマーゴット・ロビー、ともに素晴らしい演技だった。 互いが相手をどう見ていたか? メアリーは自分こそ正当な後継者と考えていたが、今は相手に庇護を求める立場。エリザベスはメアリーに対してあらゆる点で劣等感を持っていたが、今は庇護してやる上の立場、一方でメアリーの子は自分の後継ぎの筆頭候補だからその母親である彼女を冷たくあしらうことはできない・・・。 複雑な思いを持ちつつも「権力者の孤独」を誰よりも知っていた二人だけが理解しあえることもあったはず・・・
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スコットランドの寒々しい感じの雄大な自然、重厚な映像表現、なかなかな作品でした。
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イギリス王室の歴史映画をみると、どうしても日本の皇室に思いが向かう。ここから先は映画には関係ないので、適当に読み飛ばして下さい。
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イギリスの王室に比べれば日本の天皇家は父から男の子または弟へと、親等で言えば基本的には1親等または2親等の間で、「父系男子」というルールを頑なに126代も守ってきた(女性天皇は少数あったが、その子は一人も天皇になっておらず、父系男子というルールが確かに守られてきた)。けれど天皇家系図を見ると皇位継承が途絶えそうになる危機が何度かあったことがわかる。民法の規定では6親等以内が親族とされているが、6親等よりも離れた人(すなわち一般的感覚では赤の他人)を天皇に据えたことが、過去4度あった。
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(1)25代武烈天皇(498-506)~26代継体天皇(507-531)  10親等
(2)99代後亀山天皇(1383-92)~100代後小松天皇(1392-1412) 12親等
(3)101代称光天皇(1412-28)~102代後花園天皇(1428-64)8親等
(4)118代後桃園天皇(1770-79)~119代光格天皇(1779-1817)7親等
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(2)のケースは南北朝の政治対立が終わった時で、劣勢となった南朝の後亀山天皇が譲位して、北朝系の後小松天皇が即位した。二人の血縁はなんと12親等! 99代後亀山天皇から見れば、100代後小松天皇は、4代前=高祖父の兄弟の6代目の子孫にあたる。それでも父方をたどれば天皇にたどり着くのは確かなので父系男子のルールは守られていると言える。
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もっとヤバイのは(1)のケース、神話・伝承の時代に片足がかかった頃なので、どこまで正しいのか不明で、しかも10親等も違う! 25代武烈天皇から見れば、26代継体天皇は4代前=高祖父の兄弟の4代目の子孫(玄孫)にあたる。(現天皇に当てはめれば、次の天皇に4代前(=明治天皇)の兄弟の4代目の子孫がなるということ。既に宮家でもなくなっている人物だ) 当時父系男子のルールが既にしっかりあって、こういう人物を天皇に選んだということになる。でも実は、これは後づけの理由で、本当は天皇家は途絶えていたのかもしれない。でも途絶えていたとなると、かなり右寄りの人が天皇家は素晴らしいという時に必ず引き合いに出す16代仁徳天皇が現天皇家とつながらなくなってしまう・・・
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数年前、イギリスではリチャード3世(15Cヨーク朝の最後の王)の遺骨が発見された(というより、発見された遺骨がリチャード3世のものと科学的に証明された)。そこまではっきりわかったのはDNA鑑定という強力なツールができ、リチャード3世の姉の子孫とされる人物のDNAと一致したから。だがその一方で別の問題が生まれた。リチャード3世の祖父の兄弟(=ジョン・オブ・ゴーント)の子孫から今のイギリス王室に連なるテューダー朝が始まったのだが、ジョン・オブ・ゴーントの男系男子の子孫である人物のDNAと一致しなかったのだ。これは何を意味するか? 家系図に間違いがあるということ、どこかで間男があって男子の血統が変わっていたということだ。
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このニュースを聞いて、日本の皇室はどうなのだろう? と素朴に思った。平安時代の夜の生活のおおらかさぶり?を考えれば、万世一系の男系男子の系譜と自慢げに言われる皇室の家系図も相当怪しいに違いない(個人の感想です)。もしも昔の天皇の遺骨が残っているのなら日本でもDNA鑑定してみればよい。それでDNAが一致したなら、本当に自慢してよいでしょう。(そういう研究を宮内庁が認めるとは到底思えませんが…。これって学問の自由に対する不当な侵害?)
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皇室をおとしめるつもりは毛頭ないのです。国民の安寧を願って、いつも祈りを捧げておられる天皇陛下には頭が下がります。そして126代も続いた父系男子のルールは確かにすごいとも思う。けど、それって本当にホントなの? 仮にホントだったとして、そんなに大事なことなの? 男女平等の時代に真っ向から逆行する古臭いルールに過ぎないのではないか、という考えも至極まっとうに思えるのです。
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この考えに従えば女性天皇も、母系天皇も認めてもいいとなるのだが、母系天皇だけは万世一系が崩れることになるので絶対ダメと右寄りの人は言う。母系天皇を認めると、もし女性天皇が外国人男性と結婚したら、その子が次の天皇になれるのだが、肌の色や目の色が違う人が天皇になってもいいのか?と。それを聞くと確かにギョッとするけれど、でもよくよく考えれば、国際化と多様性の時代、そういうことはあっても悪いことではないし、むしろあった方が皇室にとって、かえっていいのではないかとも思える・・・ 
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とは言え、126代も続いたルールを破ってしまう勇気もなかなか持てない。最近の動向と言ったってたかが数十年、いつ変わってしまうか誰にもわからない。そんな不安定かもしれない価値観に左右されてルールを変えていいのか? 皇室は時代の変化に耐えて2000年も続いてきたというのに・・・
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結論は出ませんね。