とむ

岬の兄妹のとむのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
4.5
Filmarks試写にて。

とてつもなく残酷な話の筈なのに、
ちゃんとコミカルに描いている。
そこに僕は敬意を表したい。


ぶっちゃけた話、
障碍者の妹に体売らせる兄キの話とか、
仮に現実にある問題だとしてそんなもん直視したくないんですよ。
今やスマホで全てのものごとを掌握できちゃってると思い込んでいる現代人。
それって逆に言えば見たくないものは全て視界から排他しているというのもこれまた事実な訳で。
だからこういう重いテーマの話は倦厭されがちな部類だと思うんです。

ただ、この監督は凄く表現が巧みで、
悲惨でどうしようもない、絶望しか生まれない様な世界にちゃんとコメディを入れてるんですよね。
「ウンコ落ちてるー!」のシーンなんて僕が見てた試写会場でみんな爆笑でしたもんね。


兄が友人に対して言う
「お前みたいな奴をな、偽善者って言うんだよ」って言う言葉。
身につまされますよ。

確かに彼のしていることは社会的にも倫理的にも最低だし、到底許されることではないんだけど、
でも仮にあの場面に遭遇したとして、僕たちが何を言ったとしてもそれは他人事でしかないんですよね。
綺麗事と言い換えてもいいかもしれない。
だって、僕らに彼らは救えないんだから。

かの最高駄作「全員死刑」にもこれまた頭のおかしい配役で出演していた中村祐太郎監督(この人の芝居がまた良いんだ)演じる男性が言っていた言葉にも似たような意味が込められていたと思うけど、
僕らは彼らの家族にはなれない。

アカデミーにもノミネートされて再燃してる「万引き家族」の高良健吾の様に、
安全圏からの正論は時として刃物のように鋭く、かつ理不尽になる。
これは常に意識していかないといけない。


ラストで兄ちゃんが見るとある「夢」の内容も、
彼にとってのある願望が、見たままでなくちょっと捻った見せ方で現れていて、
それを叶えようとするけどでもやっぱりできなくて、ものすごい切ない。

そしてラストカットのある人物の表情の切れ味ときたら…。


怪作であり、間違いなく傑作。
観るべし。
とむ

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