みかんぼうや

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

4.8
実質満点(私は5.0と4.9は思い出の1本ずつしか付けていないので)。戦場や徴兵による家族離散等の悲劇ではなく、 当時の “普通の生き方”を見せたことで、その生き方を捻じ曲げる戦争の愚かさと悲惨さをより鮮明なものとしたことに価値のある、太平洋戦争物の中でも屈指の傑作。

そして、二度目の鑑賞となる今回(1回目は126分の通常版を公開直後に劇場鑑賞)のほうが格段に胸に沁み心が動かされ、何倍も素晴らしい映画に見えた作品。

それは、新たに加えられたシーンの素晴らしさにより、主人公のすずさんや周りの人々のキャラクターや生き方がより深く描かれ登場人物たちにより感情移入したことも一つの要因ではあるが、それ以上に、全体のストーリーやすずさんの人生に待ち受ける困難を既に知ってしまっていることが最大の理由ではないかと思っている。

すずさんは映画の主人公としては、ましてや戦争映画の主人公として考えると稀にみるほどの穏やかでのんびりとしてちょっとドジな、いわゆる“天然系”の女性。2回目の鑑賞ともなると、そんなすずさんの穏やかで純粋で優しい姿や最愛の夫をはじめ周りの人々との和やかで楽しそうな会話が描かれる序盤(戦争本格化の前)を観ているだけで、その先に待ち受ける試練を頭の中で想像し、自然と涙が溢れてくる(実は1回目の鑑賞では最後までほとんど泣かずだったにも関わらず)。

そして、戦況の変化とともに、そんなのんびり屋で穏やかなすずさんの声が力強くなり、時に怒りや憤りで大声をあげ感情を抑えられなくなる姿を見るに、戦争は死んでいった人々だけでなく、生き延び残された人々をいかに精神的に追い詰めていったかを痛烈に感じさせられる。その点で、“一瞬で命が奪われる戦場”とは異なる、 “じりじりと壊れゆく日常”という残酷さになんとも胸が詰まる思いがした。

そして言うまでもなく、本作最大の魅力である主人公のすずさんを完璧に演じ切った「のん」。実は「あまちゃん」をほとんど観たことがない私は、当時、能年玲奈が注目された時にその才能を全く知らなかったのだが、初めて本作を観ただけで、彼女のとてつもない才能が素人の私でも一発で分かるほど、すずさんの独特な雰囲気を、そして、もはやこの作品全体の雰囲気を“声”だけで作り上げていた(どこか絵本のようなもちろん作画も素晴らしいですが)。

個人的に日本のあらゆる学校教育の現場で生徒たちに見せて欲しいと思う太平洋戦争を舞台にした映画No.1作品。
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