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この世界の(さらにいくつもの)片隅にのKHのレビュー・感想・評価

5.0
東京国際映画祭にて鑑賞。
前に観てたけど、ずっとシアターで観たかった作品。
戦争を描いた物語じゃなくて、徹底的にすずさんの視点から日常を描いた物語。
だから戦争映画と言うより、すずさんの日常に戦争が少しづつ入り込んでくる。
この映画は色んな事が描かれすぎていて、1つの切り口では語れない。

この映画の凄いところは家族が亡くなっても、手を失っても、終戦になっても、全て同じ尺で進んでいくところだと思う。
今までの映画だったら、大切な人がなくなったり終戦の日だったりを長い尺で感動的に作るけど、「この世界の片隅に」はそこを淡々と描く。
戦争を経験していない世代にとって、8月15日は歴史的な瞬間だけど、その時生きてた人には、同じ一日の長さで進み、16日、17日と進んでいく。
この映画のテーマは、どんな悲劇でも喜劇でも毎日は淡々と過ぎ去っていく所にあると思う。
1番好きなシーンは戦後の台風のシーン。
戦争が終わっても台風はいつも通りくるし、台風に備えてガヤガヤしてるのをみんなが不謹慎に楽しく思うシーンがホッとする。

すずさんの男性に対する恐怖(兄であったり、水原であったり)を、自己防衛として脳内でファンタジーに置き換えてるのが面白い。そして本当は周作ではなく水原みたいな男性像を求めていた所も。
あと、体格などから徴兵されずに軍港に勤務している周作、対比的にガタイがよく水兵の水原。周作の水原に対するコンプレックス故、水原の元にすずさんを送り出す周作がめちゃくちゃ切ない。

更にこの映画の凄い点は物語でありながらも徹底的にドキュメンタリーに徹している。
その日の空襲警報、天気、雲模様まで緻密に調べアニメーションに落とし込んでいる。
あと、原爆投下の日が着々と近づいてくる不穏さと緊張感の演出がいい。
画面の中の人たちは、これから起こる悲劇を知らなく快晴の日々が続くが、観客のみんなは8月6日を意識してる、このギャップを上手く利用してるのが凄い。
ただなんと言っても、1番のこの映画の魅了は、すずさんの演技がたまらなく可愛い。照れた時顔を俯く感じとか。
自分たちの想像する戦争は白黒の世界だけど、「この世界の片隅に」はそんなイメージに色を与えてくれるような作品。
今までの戦争映画の歴史を変えたし、悲劇を描いた従来の作品はもう古いものになってしまった。
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