しおまめ

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのしおまめのレビュー・感想・評価

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ああ、こういう話だったのか。


2016年公開されたものと原作漫画を読んだ印象は(語弊あるかもしれないが)神話と言えるほど遠い昔の話として現実感乏しく感じた戦時中を、史実であると力強く言ってくれた作品でした。
戦争を前面に出さず、ドキュメンタリーに近い形で当時の生活をこと細かに描いたことや、原作漫画のコマの欄外に至るまで書かれた用語の解説など、緻密な取材があったからこそ出来上がった傑作だと言えます。
しかし、新規及び変更シーンを加えた今回の <さらにいくつもの> は、以前のものよりも更に当時生きていた人々というパーソナルな部分へ注視させることに成功したと言えます。

今回追加された新規シーン等は原作漫画にあるもので、漫画を読んだ人には物語的な目新しさは無いけども、漫画と違って文字の説明は勿論、台詞による説明も皆無な今回のアニメ映画版は、以前のような歴史物のような印象よりも、時代関係無く共感できる“居場所の物語”という印象をより強く与えるものになったと言えます。

その“居場所の物語”における居場所とは場所に限らない。人であったり、物であったり。戦争に直接関わるものにも平等に描かれる。
大海へと向かい撃沈させられる戦艦大和と、機雷をばら蒔かれ、出港出来ないまま終戦を迎えた戦艦青葉との比較のように、忌むべき戦争のために作られた兵器でさえも、その当時の人の拠り所として描く。
棄てられた昔の家に身を寄せる孤児たちも描く。「住めば都」という綺麗事としても描かず、ただ確かにこの世界に“居場所”が存在することを示した作品であると言えます。



2016年当時のものと比べて、白木リンを加えたある意味W主人公になったことで、歴史物ではなく、より人間的な物語へと昇華したと言えます。
正直に言えば、これを最初に観たかった。
しかし三時間近くの尺や製作費用などのもろもろの問題を抱えていたのは明白で、こればっかりは仕方ないこと。むしろよくぞ完全版として映画館で上映してくれたのが凄い。片渕須直監督の執念感じるものでした。
ただ、“居場所の物語”を主張するためか、白木リン絡みのシーンがとてもゆったりしている。全体のテンポが“超”早いのに、途端にゆったりとしたものになるので違和感のほうが強く・・・。
また、口紅による描写が本編にも入るようになったのに、エンドロール後も以前と同じように入るのは少しクドいように感じましたが・・・それは些細な問題でしょう!


点数はつけないでおきます。
素晴らしい作品であるとはいえ、いわゆる完全版なので以前との比較する気持ちのほうが強く出てしまったので・・・。
しおまめ

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