Pigspearls

アラン・デュカス 宮廷のレストランのPigspearlsのレビュー・感想・評価

4.3
予告映像がヴェルサイユ宮殿バーン、だったため、もっとこう、スノッブさに圧倒される贅を尽くしたグルメドキュメンタリーかと思っていたら、日本からはじまり世界を飛び回り、天才の食と経営と挑戦の感動を追体験できる、アランデュカスのあくなき冒険譚!興奮!嬉しい想定外!

もはやシェフとしても経営者としてもLvカンストしてる感があり、この人が闘い続けるモチベーションはなんだろう、と思いながら観はじめたら、そんな疑問が吹き飛ぶ人徳と強靭さ。飽食と飢餓の二極化を食い止めるという使命感。農場育ちの彼ならではのオーガニックの意味。観察と継承。知識は独占せず、部下に同じ経験をさせること。ユーモアたっぷりに、しかし世界一高性能な舌と嗅覚で、次のステージへと向かうさまは本当にカッコいい。
ひとつの成功にすがって繰り返して生きていける時代ではないから、他の誰もやっていない新しいことを完璧に遂行すると。「とんがっている」ほうの選択肢を選び、世界中に散らばるシェフにもそれを求める。ひとつひとつの言葉が刺さる。しかし目線は愛と敬意があり、フィリピンの神父さんとのやりとりにはホロリとしつつ。

なるほどいまの時代に、記憶に残る体験を提供し続け、ゆたかな後進を育てる企業のひとつの正解がここにあります。

チョウザメ養殖から捌いてキャビアを作るところ、カカオの実を収穫したあとの恵みの雨。テンポ良い映像も印象的。最上級の知恵のシャワーを浴びるような気持ちでした。

蛇足。タイトルといい予告といいビジュアルといい、おばさま受けしそうな宣伝展開のミスリードがわざとだとしたらやりおるな、と思います。これは確かに日本のグルメおばさまとそこに女性をお連れする経済力あるおじさまたちにこそ観ていただきたい作品だとおもうのです。