RiN

mid90s ミッドナインティーズのRiNのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

冒頭、のちに『サンバーン(日焼け)』という愛称で呼ばれるようになる少年は、兄の部屋を物色していた。決して痕跡を残さぬよう慎重に、しかし好奇心に満ちた瞳と拙い足取りで。
兄は怖い。体も大きいし、熱心に鍛えている。何かというとすぐに癇癪を起こしては弟を殴る。特に、大切にしているナイキのエアフォースや神と崇めるロックバンドのCDに、無遠慮な弟の手が触れることを忌み嫌っていた。
それでも、と少年は思う。たった数歩先の鍵のない宝物庫に、忍び込まない男がいるものか、と。まだ知らない刺激的でエキセントリックな音楽、最高にクールなロゴのTシャツ、整然と飾られた誇らしげなスポーツシューズ、それにピカピカのスケートボード。そのどれもが、手を伸ばせば届く距離で彼を誘惑するのだ。

エモいという言葉は、随分と独善的だなと思う。エモいの共通認識は、あるように見えて微妙にひとりひとり違うものだ。それでも、エモいを連発して映画館を出た。
ここではわたしのエモいしかわからないので、あえてそれを感想とする。一言でいえばこれは、「ワルい年上めっちゃカッコいい」映画なのだ。
兄姉や年上の友達、学校の先輩、親や親戚だっていいだろう。幼いながらに憧れた彼らへの気持ちと、あれ?彼らの生活って思ったよりいいもんでもなさそうだぞ?の気付きの片鱗を描いた、わりとよくあるパターンの話だ。
この感覚を「ステイウィズミー」で初めて味わって、実生活では中学生くらいの頃に気付いた。それでもワルへのあこがれは高校の間じゅうくらい、何ならもう少しあとまで引き摺った。気づいたのはやっぱり、ワルとちょっと仲良くなったからだった。
仲良くなってみると彼らの、どうしようもない感じがわかってくる。マトモに育てば(偏見にまみれた言葉だけどここでだけは許して)笑って受け流せるアレコレに、いちいち怒ったり傷ついたりする彼らの、繊細さといえば聞こえのいい幼さだったりとか、守らなければいけないルールをあえて踏み外して周りを試す甘えだったりとか、そういうのは大人になればなるほど「みっともなさ」というハンデになる。賢くてちょっとズルい友人たちは、少しずつ彼らから離れていく。学生時代にはちやほやされた不良が、だんだんとみすぼらしくなっていくのは、そういう理由だと思う。
サンバーンもきっと気付く。なぜなら彼には、そこから脱出したばかりの懸命な母と、優しさを学ぶ途中の兄がいるから。そして願わくば、不良たちにとっての天使がサンバーンであればいいな。
RiN

RiN