空海花

ナイチンゲールの空海花のレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
4.5
昨年観た衝撃作『異端の鳥』
私は新作で唯一満点を付けた。
本作もある種それに似た衝撃を受けた。

監督・脚本ジェニファー・ケント
ヴェネチア国際映画祭二冠、
豪州アカデミー賞で作品賞、主演女優賞ほか6部門受賞。

舞台は19世紀のイギリス植民地下のオーストラリア。
ナイチンゲールとは
サヨナキドリ(小夜啼鳥)
西洋のウグイスと言われるほど鳴き声の美しい鳥。
主人公クレアは美しい歌声の女性。
流刑されてきたアイルランド人の女囚。
女囚と言っても流刑には入植の意味もあり、夫と子も居て、家もある。
とはいえ奉公する身、一帯を支配する将校たちも居て、自由はなく貧しい。
もう刑期は過ぎているのに…
更に彼女は激しいレイプを受け
夫も子供も殺されてしまう。
訴えも聞き入れられず、彼女は復讐を決意。
旅立ってしまった将校ホーキンス達を追うため、
先住民アボリジニの青年ビリーをガイドに雇い、タスマニアの原野の中を進む。

『異端の鳥』は少年の地獄巡りだが
本作には女性の地獄が待っている。
なので想像される描写が苦手な方で
鑑賞予定だとしたら覚悟をもって臨んでほしい。
それでも高評価したいのは
性差別と人種差別(むしろ迫害)、
オーストラリアにおけるブラック・ウォーを背景に女性の目線で描ききっていること。
また単にそれを描くだけでなく、彼女の変化を描いていること。人の心を描いていること。
あまり知られていないオーストラリアの
歴史の残虐性を薄めたくなかったと語る監督のインタビュー記事を読んで納得し、私は同意できた。
ちなみに日本で使われている“アボリジニ”は今は国際的には差別的だとして使われなくなっているらしい。
また、先住民を一括りにしていることも問題で、多くのグループ、その数だけの言語もあったという。
保護という名の隔離政策で、純血のタスマニアン・アボリジニは絶滅している。
鑑賞直後は「すごいのを観た」と
気持ちは昂ぶったものの、
その夜は意気消沈、ぐったりしたことはご参考までに😂
オーストラリアの黒歴史について、知らなすぎたという気付きも私にとって大きいものだった。

彼女の憎悪は観る方の怒りも初っ端から動員して始まるのだが
将校たちの暴力は言わずもがな
クレアの罵り方も半端なくて面喰らう。
先住民であるビリーに無茶もワガママも怒り顔で通す。
ビリーにとっても白人はみんな白人である。
それにしてもイギリスの象徴でもあろう将校ホーキンスの憎たらしさったらない。

思うのは支配する者、差別する者によってそれはいかようにも転がるということ。
守ると言ったり殺したり
ホーキンス隊のカオス状態…
こういう事柄に根拠なんか何一つないのだ。

なんて野蛮なことだと思う。
理不尽に奪ったり、暴力をふるったり、
人の心や場所を踏みにじること。
せめて昔のことだと慰めたくなるが
今も変わらないなら同じことだと言いたくなる。

しかし、悪夢を何度も見るような
森の深い闇の中でも
ほんのり月明かりが射すこともある。
クレアとビリーが少しずつ
互いの苦難を知り始めること。
理解し認め合っていくこと。
共通の敵という認識、共感も伴って。

残酷性だけではなく
着地の受け止め方もどうやら割れていそう。
キャスティングのマッチングも素晴らしいことも記しておきたい。



以下ネタバレ濃いので下げます🙇‍♀





これがいわゆる娯楽的な復讐劇なら
共闘という胸熱展開だが
ここにお互いの物語、歴史の実情が表れてくる。
彼女にとってはむしろ復讐を諦める旅。
ただある意味では果たしたというか、
気は済んだように見えた。
だが、とても赦せないこの将校の罪は誰が裁くのか?
郷に入っては郷に従え。
これを復讐と呼ぶか、裁きと言うか、
善し悪しは別として
この地での慣習は、ビリーが語った
こういうことなのだと私は思った。

ビリーの本名のマンガナは
ブラックバード(クロウタドリ)
原生林を思わせる、鬱蒼と茂った背の高い木々の中は、美しいというより畏怖を抱かせる。
どうやらガイドが居ないとこの地を抜けることはできないようだ。
クロウタドリに会えたら、
鳴きながらその鳥が道案内をしてくれる。
鳥がいくぶんか慰めてくれた😢

一夜明けて辿り着いた砂浜。
ナイチンゲールとブラックバード
それぞれの歌声を海に響かせる。
彼らの鳴き声は太陽に届いただろうか。
この時代と同じ太陽が今日もまた昇る。
2人の姿は今の在り方に続いているのだと思う。


2021レビュー#077
2021鑑賞No.115
空海花

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