KnightsofOdessa

ナイチンゲールのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
4.0
[悪党どもはぶち殺せ] 80点

1820年代、タスマニアは流刑地だった。当時、ブラック・ウォーと呼ばれる植民者とタスマニアン・アボリジニの戦いは苛烈さを増していた。物語はアイルランド系受刑者クレアを中心に展開し、傲慢な為政者であるイギリス人、アイルランド人を含めた白人に虐げられているアボリジニの胸糞悪い歴史が、家族を殺されたクレアの復讐の旅に圧縮される。『天使の復讐』と『美しき冒険旅行』と『UTU / 復讐』を同時に味わえると言えば良いのか。字面からも分かる通り、レイプリベンジ・未知との邂逅・為政者への復讐というテーマを持ち、かつ男性社会における女性と植民地におけるアボリジニという虐げられるマイノリティを描き出す側面も持ち合わせている。

殺された夫と子供の復讐のため、嫌々ながら案内人としてアボリジニの青年ビリーを雇うが、強行軍を繰り返すクレアと戦地を生きて通り抜けたいビリーの間の溝は埋まらない。終始馬に乗るか馬を手放さないクレアはビリーと並ぶことなく前後になって歩み続ける。そして、互いに境遇を語り合って行軍を共にすることで、二人の間に絆のようなものは芽生え始める。互いを一人の人間として認めるまでは至るが、流石にマクロな相互理解まではたどり着かないとこが非常にリアルで、完全無欠な"いいお話"として偽善的に完結させない潔さがある。

翻って、クレアのいた居住区をさっさと逃げ出した犯人一行の中にも、案内人としてのアボリジニや所属不明の白人少年がおり、彼らの存在が単なるクズどもの集団に深みを与えている。少年はクレアの語る過去と同じ様な過去を持っており、"支配者"と"被支配者"の追いかけっこ描く本作品においては前者に所属しているものの、そのどちらにも未来が分岐している存在と言えるだろう。この少年は支配層に憧れて結果的に銃を手にするが、人間性を棄てきることは出来なかった。そして、案内人の老人は沈黙するマイノリティとして支配者側に従っていると思いきや、銃を持って立ち向かうクレアたちとはまた違った自分なりの方法で復讐を遂行する。この復讐の対比は見事だった。

森を抜けて街に近付けば人も増えてくる。親切な老人、なぜか殺されている白人入植者、アボリジニの奴隷をむやみに殺す白人ハンターたち、軍本部にいる軍人たち、これまで以上にクリシェを積んでいく。その先にあったのは、"黒い鳥"の飛翔とサヨナキドリの美しき囀りだった。
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