みーちゃん

ある画家の数奇な運命のみーちゃんのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
4.0
ナチ政権下を描いた作品は多数あるけれど、序盤のエリザベトへの行為や政策ほど、絶望と恐怖を身近に感じた事はない。

その衝撃に比べると、その後は比較的静かに物語が進むのが意外だった。もっと、怒りのような激しい感情が全編に溢れ、芸術に対する直接的なモチベーションとして描かれるのを予想していたら、そんな、陳腐で安易な発想とは、表現方法の次元が違っていた。しかも、鑑賞後にじわじわ効いてくる。

あらすじ欄との重複は避けるが、義父のゼーバント教授は強烈。おそらく、彼の思想、思考が外的要因によって揺らぐことはない。
私の解釈では、そんな人物を"絵画の持つ真実の力"が動かしたのだと思う。それが、クルトが自分の内側を突き詰め、昇華させ、アウトプットしたことにより、図らずもゼーバント教授の、内的要因としてもたらされた。というところが深い。あの二人の存在や関係が何を示しているのか、考えさせられた。

印象的だったのは、美術大学の教授が講義で、二枚の絵を燃やすシーン。あの構図自体は、インパクトはあるものの、斬新というわけではない。しかし、それなら誰でも撮れるか?となると、あのイメージを映像では再現できないと思う。

背後で静かにメラメラと燃え上がるシンメトリーな炎、オリヴァー・マスッチの衣装と表情、立ち位置、タイミング、全てが完璧な"作品"だった。本作の根底にあるメッセージを象徴しているように感じた。