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ある画家の数奇な運命のワンコのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
4.2
【ミケランジェロ、24歳、ピエタ】
若い頃に才能を開花させないとと紹介される、ミケランジェロ、24歳の時のピエタは、バチカンのサン・ピエトロのピエタだ。

サン・ピエトロ寺院の入ってすぐ右にあるピエタ。
磔刑から下ろされたキリストは死して尚、復活を示唆するみずみずしい筋肉を保ち、悲しみに暮れるマリアは、我が子が自らの腕の中に戻り安心しているようにも感じられる。

だが、最後の作品となったロンダニーニのピエタは、荒削りで、ある意味、現代彫刻のようでもある。
これは、正面からは、死んだキリストを必死で抱き起こそうとするマリアに、背後からは、老いたマリアをおぶうキリストのように見えるのだ。

作品中で、ファンヘルから、脂とフェルト生地の原体験の話をされるクルト。

クルト自身の原体験としての叔母エリザベト・マイの裸体。
同じ名前をもつエリーとの肌の触れ合い、裸、乳房、セックス。

意味のない数字が意味をなすとは。

エリザベト・マイが連れ去られる様を見ることが出来なかった怖さ。
写真の模写とぼかし。

自身の原体験が作品のエネルギーとなり、作品に変化をももたらしていく。

クルトの叔母を安楽死に送ったのがエリーの父であるという運命にフォーカスが当たるのだと思うが、実は、この作風の変遷が数奇な運命なのだと、僕は感じる。

バスのホーンが、エリザベート・マイと聞いていた音として、今でもクルトの頭の中に響き続けているのだ。

ミケランジェロは、サン・ピエトロのピエタで名声を確立したが、最後の作品もピエタだ。
ピエタは、ミケランジェロの原体験とも通じるものがあったに違いない。
だが、最後のロンダニーニのピエタは、タッチも求めるテーマも異なる物だ。

この作品のモデルであるゲルハルト・リヒターの作品の変遷もそうであるように感じる。

ドイツの歴史の暗い部分もあるが、芸術や、それを生み出す人の力も感じて欲しいと思う。

因みに、僕は、壁崩壊直前に、東ベルリンの美術館に行ったことがある。
労働者を賛辞する絵は、映画のクルトの作品と非常に類似していた。
退屈なものだった。
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