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ある画家の数奇な運命のsymaxのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
3.6
1937年、ナチス政権下のドイツ。

少年クルトは、叔母エリザベトと共に美術館へ、戦争の足音が聞こえ、やがて自由な芸術が淘汰される…

クルトが大好きだったエリザベトは、精神のバランスを崩し、統合失調症と診断され、"目をそらさないで…真実は全て美しい"との言葉を残し施設へ、そして安楽死政策によって一人のナチス高官の判断により、命を奪われてしまいます。

戦後、東ドイツの芸大で学んでいたクルトの目の前に現れたのは、叔母に雰囲気の似たエリザベト=エリー。

奇しくも叔母と同じ名のエリーと愛し合うようなるクルト。

ですが、エリーの父は、叔母を殺したナチス高官その人だったのです。

エリーと結婚し、画家として徐々に生活も安定してきたクルトでしたが、社会主義国家の息苦しさから、自分の芸術を見失い、ベルリンの壁が出来る直前に、エリーと共に西ドイツへ。

自らの芸術とは何かを模索しながら作り上げた絵画は、正に自分自身の原点である叔母エリザベト。

出来上がった作品を見た義父は、恐れ慄く…


一人の画家を通じて、ドイツの30年史を描いた大河ドラマ。

物語は、開戦間際のナチス政権下と戦後の東ドイツ、亡命後の西ドイツと大まかに3つのパートに分かれていまして、クルトの画家としての成長を軸に、ナチス高官だったゼーバント教授の逃亡の記録も併せて描かれています。

このゼーバント教授は実に狡いし、強運の持ち主なんですね。

結局、最後まで家族やクルトにもゼーバント教授の真実はわからないのですが、クルドが"目をそらさず、真実は美しい"と己の芸術を突き詰めた事が、知らず知らずの内に、ゼーバント教授を追い詰め、恐怖を抱かせる結果になったのでした。

本作の予告編は、謎解きのスリラーのような売り方でしたが、クルトがゼーバントの悪事を白日の元に晒すような展開ではなく、あくまでクルドの画家としての原点から学び、苦悩そして覚醒までを描いているのですが、かと言って、堅苦しい芸術論を全面に押し出した芸術作品では無く、エンタメ感が強いので、3時間越えの大作ではありますが、時間を感じさせる事なく、物語にのめり込む事ができる秀作でした。 
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