みりお

7月22日のみりおのレビュー・感想・評価

7月22日(2018年製作の映画)
4.0
素晴らしい作品だった。
観ている間ずっと、体がちぎれそうなほど辛い。
けれど、だからこそ、ビリヤルの最後の証言には涙が止まらなくなる。
犯人の顔を見ることは、どれほどの恐怖だっただろう。
何度夢であの日のことを見て、目を閉じれば耳の奥に銃声が聞こえたかを思うと、1秒でも早く薄れさせたい記憶だったはず。
けれどビリヤルは、犯人の発言がプロパガンダにならないために、ウトヤ島で散った友人の命の尊さを伝えるために、胸を張って相対することを選んだ。
その勇姿に、本当に心打たれた作品だった。

これは既に10年以上前の事件で、後世になればなるほど事件当日のことのみが語られていくんだろう。
「ウトヤ島銃乱射事件」として、真実は歴史になっていく。
しかし、かたやそれはたった10年前のこと。
この事件の被害者たちはいまも必死に生きていて、その生き続けている毎日の中でこの事件のことを思わない日はなかっただろう。
身体の後遺症に苛立つ人。
心の後遺症に苦しむ人。
計り知れないほどの恐怖と痛み。
それを毎日毎日味わって、それでも生きていく。
それはどれほどしんどいことか…
事件は、7/22に"あった"わけではない。
2011/7/22からいまの今まで、そしてこれからも、被害者と遺族はあの日の延長線上にあって、決して過去のことではないのだ。
その日々がどれほど辛いものか。
その一片を垣間見させてくれる、素晴らしい作品だった。

『ウトヤ島、7月22日』を観てこの作品を知り、併せて鑑賞したのだが、観る順番としては合っていたと思う。
『ウトヤ島、7月22日』が犯人の姿すら映さず、ひたすらウトヤ島で銃撃の中逃げ惑う臨場感溢れる作品なのに対し、本作では事件は簡略的に描かれ、事件後の被害者と犯人の数ヶ月が克明に描かれる。
もし本作を先に観ていたら、ウトヤ島の銃乱射の中で逃げ惑う未来ある若者たちの無念にここまで注視できなかっただろうし、逆に『ウトヤ島、7月22日』を観るときに、犯人の顔が浮かんでしまって、恐怖よりも怒りが増してしまったと思う。
もしいまから本作を観る方がいたら、先に『ウトヤ島、7月22日』を先に鑑賞することをおすすめしたい。


【ストーリー】

2011年7月22日、極右思想を持ったノルウェー人のブレイビクが首都オスロの政府庁舎前で爆弾を爆破させて8人を殺害。
さらに労働党青年部のサマーキャンプが行われていたウトヤ島で無差別に銃を乱射し、69人の命を奪った。
ウトヤ島でブレイビクの凶弾に倒れた少年ビリヤルは九死に一生を得るが、脳に銃弾の破片が残り、以前のように自由も利かない体になってしまう。
やがてブレイビクの裁判が始まる。


【キャスト・スタッフ】

*監督:ポール・グリーングラス
イングランド出身🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿
大学卒業後はドキュメンタリー制作分野で活躍し、また調査専門のジャーナリストとして書いた『スパイ・キャッチャー』はベストセラーとなるほどの実力の持ち主✨
1998年に『ヴァージン・フライト』で映画監督デビュー🌟
2002年の第52回ベルリン国際映画祭で『ブラディ・サンデー』が金熊賞を受賞しています🏆
2006年には『ユナイテッド93』第79回アカデミー賞のアカデミー監督賞にノミネートされ、英国アカデミー賞では監督賞を受賞しています👏
その他の監督作は『ボーン』シリーズや『この茫漠たる荒野で』など。
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