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薄化粧のあのレビュー・感想・評価

薄化粧(1985年製作の映画)
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妻に覗かれているに気がつき、動きを止め、「おまんのせいぞ、おまんの」と言いながらバックを突く緒形拳とニタリと笑って喘ぐ浅野温子。切り返してその二人越しに窓から睨む妻の顔。尋常じゃない。
川谷拓三が孤独に犯人を追う刑事役で、執念というよりもはや親密さに近いようななんとも言えない表情と運命的な繋がりを感じさせる。それはやはり動物的というべきだろうか。なよなよした男は竹中直人の真骨頂で、田舎者の負け根性にもかかわらず、殺人鬼に与する性根もある。藤真利子は男に逃げられた女で殺人鬼と知って緒方拳に惚れ込むのだが、去っていこうとする緒形拳を駅まで追い駆け、初めて自分の欲することを表明する。その直前の諦めと絶望から鏡の前で厚化粧をするところからの急展開。家を出たときは薄化粧になっている。同じく駅の便所で自ら薄化粧をした緒形拳と線路を挟んだホームの両岸で向かい合う。このとき、それまでは情と欲で結びついていた(それは動物的な関係と言ってもいい)緒形拳と藤真利子が人間として再び出会おうとしていた。だけど、藤真利子が意図せず引き連れてしまった刑事たちが線路に沿って真横から強烈な光とともに二人を照らす。これほど人外無機質なこともないだろう残酷な光が二人の未来を突然に終わらせる。
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