Kamiyo

薄化粧のKamiyoのレビュー・感想・評価

薄化粧(1985年製作の映画)
3.8
1985年「薄化粧」監督五社英雄 脚本古田求
原作者は西村望 あの西村寿行の実兄です

昭和25年に起きた連続殺人事件の犯人を描く異色作!
”女房と息子を殺した罪で逮捕された外道が、脱獄して
飯場を転々としながら逃げ回る。”仏壇を持って”。

緒形拳の凶悪犯罪者三部作の監督と公開年は以下の通り
鬼畜 野村芳太郎監督1978年
復讐するは我にあり 今村昌平監督1979年
薄化粧(本作)五社英雄監督1985年

緒形拳は犯罪者役が適役で、いずれも強烈な印象を残す
緒形拳といえば『鬼畜』の鬼気迫る演技が忘れられないが、こちらの「鬼畜」も凄味がある。無教養な男が、大金に目を眩ませ、女に狂い、手を血に汚しながら身を滅ぼしていくさまを描いていく。刑事が言う「いい女とさえ出会えていたらなあ」という言葉が忘れなれない。つまり「悪い女」が男を堕落させたという考えが作品の底辺にあるが、しかしそれと母子と若夫婦の惨殺を簡単に結びつけて良いものかと少し考え込んでしまう。

昭和25年、愛媛県新居浜市の山麓にあった別子銅山で同一犯によるダイナマイト爆殺事件、母子殺人事件が発生、さらにはその犯人が刑務所から脱獄して再逮捕されるまで長期間にわたった大事件のことです

僕は「鬼畜」と「復讐するは我にあり」でのイメージが強烈に焼き付いていますから、いつ豹変すらか分からない底なしの恐ろしさをもって緒形拳が演じる人物を観てしまうのです
そして、ついに本性を現した!というような感覚で、正真正銘の凶悪犯罪者”坂根藤吉”を演じる緒形拳を本作で観る事になるのです
その凶悪な犯罪者であることを知りながら、彼を受け入れ抱かれる薄幸の女・”内藤ちえ”を藤真利子が演じています
この藤真利子の配役が本作が成功した最大のポイントだと思います

この時の藤真利子は30歳、まだまだ若いはずです
しかし”内藤ちえ”藤真利子は美人であっても、もともと派手な顔立ちではありません どちらかと言えば地味です
それをさらに化粧っ気もない素顔のようなメイクに抑えてあります
身体の線はか細く、肉感的なものは胸にも腰にもどこにも有りません
だから”内藤ちえ”本人はもう若くなし、男を虜にする魅力もないし気力もないと諦めきっているのです
薄幸の女性を絵に書いたような風情なのです
しかし性的な雰囲気が無いかというとそれは違うのです
白い肌、細い腰、実際よりも小柄に感じます

逃亡生活の果てに、坂根は一人の薄幸の女”ちえ”と巡り合う。
”ちえ”も坂根に強く魅かれ、やがてふたりは自然に親密な関係になっていった。

退職した刑事役の大村崑の言う 言葉が
坂根は今なって思うが、今までに女運が悪かったため
坂根にとって”ちえ”は、初めて出会った菩薩のような女であった。

なぜ”ちえ”は坂根を凶悪殺人犯と知りながら、受け入れたのでしょうか?
”ちえ”は坂根に薄幸な自分自身を見たのかもしれません
この人を一時だけでも幸せにしたいと
そのために自分が殺されたとしても構わない
むしろ殺されたかったのかも知れません

タイトルの薄化粧は、ラスト間際で緒形拳と藤真利子がそれぞれ化粧をしていくシーンがいいね
男は単に逃亡を続ける為に
女は男を諦めないために

薄化粧とは本質は化粧で変えられないことを知りつつ
それでも少しでも自分を変えようとする行為
言い方を変えると”あがき”なのかも知れません

緒形拳の冷血動物を思わせる目の光の色は見事な名演
斧で妻を殺すシーンが凄い。浅利香津代熱演。
お陰で他が霞んでしまった。

現場でのトラブル解決で藤吉に恩を感じ慕って探し回った氏家(竹中直人)。
執拗に藤吉を追い続ける四国の刑事真壁(川谷拓三)。
抜群のスタイルと美貌が際立っていた浅野温子さん
小娘を演じた松本伊代さんですが、色気は感じないまでも演技は悪くないと感じた

本作のエンドマークのあとにでるテロップの通り実話をベースにしています
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