塚本

ROMA/ローマの塚本のレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
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1970年代はじめのメキシコシティ、ローマ地区を舞台に、政治的混乱に翻弄されるある中流家庭の姿を描いたこの作品は、自分を育ててくれた家政婦さんに対する個人的ラブレターでもあると監督のアルフォンソ・キュアロンは述べています。


そもそもこの作品はAlexa65という被写界深度がむちゃくちゃ深くパンフォーカスで抜群の仕事をする、レンタルでしか使用出来ない超高性能カメラで撮影されました。
白と黒のコントラストで見せるフィルムノワールとは違い、灰色の配色をきめ細やかなグラデーションを映し出すことに成功している(らしいです。)
その特性を生かしてほとんど全編に渡って、引きのカメラで撮影されていて、人物に対してもズームアップは無く、全景で捉えております。人物が動くとカメラも水平に、ドリーで追って行くんですね。しかも長回しで。
そして音響に至ってはDolby Atmosを使用しており、その効果も圧倒的だそうです。

ま、要するに本作はキュアロン監督の前作「ゼロ・グラビティ」同様、それなりの環境が整っている劇場向けのスペクタルな側面を持つ映画として撮られているんです。


…ただこの作品はある不幸なプロセスを経た結果、作品の持つポテンシャルを全てスポイルするコンテンツでしか鑑賞できない不運に見舞われてしまいました。

なんと俺たちはこの映画を(映画祭などでの特別上映を除いて)映画館じゃ観れんのです。

プロデューサーを務めるデヴィッド・リンドは次のように述べています。
「留意していただきたいのは、今日の映画マーケットにおける非英語作品の扱いは非常に複雑なものだということです。私たちは、様々な問題を慎重に検討し、この作品が劇場で上映されることを重視すると共に、可能な限り多くの観客に届けるために最良の方法を選択しようとしました。そして世界中でこの作品が上映されるためには、Netflixが私達に示した配給プランが最も説得力があるものだったのです。」
…いやいや。。あかんやろ。“ビッグバジェットのアートムービー”が持つジレンマは今に始まった事じゃありません。このオッチャンの語るところは、完全に矛盾してるんじゃないですか?
俺自身、Netflix配給作品としてiPhone8の4.7インチ画面で観させて頂きましたが、この作品が本来持つであろうダイナミズムが全く伝わって来ませんでした。「あー、このシーン、、大画面で観たらとんでもないことになっとるんやろなー」と色々想像させてはくれましたが、殆どが引きの画面で捉えられた人物の表情なんかは全く読み取れません。
実際、東京国際映画祭での上映を決めると、NETFLIXから「シルバースクリーンだめ、(音響は)ドルビーアトモス(が導入されているシアター)じゃなきゃだめ、上映は全回チェックします」と指示があったそうです。そんなにも上映の仕方にしっかりとこだわる作品を、ネット配信でしか公開しないという……。

アカデミー賞最有力候補の本作がキチンとした形で観れる日が来ることを願うばかりです。
塚本

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