キャッチ30

ROMA/ローマのキャッチ30のレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.6
ふと頭をよぎったのはメキシコ版『この世界の片隅に』だった。大きな世界の中の小さな世界。

今作は監督であるアルフォンソ・キュアロンの半自伝的物語だ。物語は中流階級の家庭で働く家政婦クレオの視点から描かれる。時は1971年。学生運動が盛んだった時代だ。

とにかく冒頭の床を水で流すシーンから一気に惹き込まれる。キュアロンは静謐な内側世界と喧騒な外側世界と自然音を上手く組み合わせている。特に、クレオたちが街で買い物をしている最中に「血の木曜日事件」が発生し、病院へと向かうシークエンスは圧巻だ。

もう一つ、重要なのは『トゥモロー・ワールド』や『ゼロ・グラビティ』で提示された"喪失と再生"のテーマである。この役割をキュアロンはクレオとソフィアに負わせている。クレオはマチズモの恋人との子供を妊娠し、苦悩する。ソフィアは夫が若い女と不倫しているのを悟り、孤独になる。それぞれ打ち拉がれるが、静かに前に進んでいく。メインの男性陣が下衆という設定も面白い。

総括すると『ROMA/ローマ』は眼と耳で味わう映画だ。物語性や劇的な展開を重視するハリウッドにはそっぽを向かれやすいが、深い余韻を残す。候補作の『ボヘミアン・ラプソディ』とは違った感動がある。この感触はネット配信では勿体ない。劇場公開してくれたイオンシネマに感謝。