もりあいゆうや

記憶にございません!のもりあいゆうやのネタバレレビュー・内容・結末

記憶にございません!(2019年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

三谷幸喜脚本・監督の新作映画を観られる喜びを噛み締めながらFilmarksさんの試写会にて観賞。
初めて見る幸福感と共に、笑わせるって難しいのだなぁということを痛感させられる一作。

ワクワクと緊張と期待が入り混じった気持ちは、開始10分ほどで無に。
序盤がつまらないと、いくら期待していても面白くならない。

一度、あ、これつまらないなぁ、と思ってしまうと、ディテールをネガティヴに解釈してしまうことが多くなる。
「モブのカメラマンのカメラの構え方がおかしい」とか「官邸料理人ってこんなことまでやるの?」とか「料理人はいるのにお手伝いさんはいないの?」とか「内閣府行く時に耳に鉛筆挟んでる大工なんているか?」とか「ホテルのスイートルームのライトが邪魔だ」とか、重箱の隅をつつくような事柄かもしれないが、ツッコミどころに目がいってしまう。好意的に観ている作品なら、脳内でいい感じに解釈してスルーできることも、気になってしまう。
変なバイアスがかかってしまい、悪循環に陥る。
抜け出すのが難しい。
今回は最後まで抜け出せなかった。

主演は中井貴一。(個人的に)三谷ファミリーのイメージがあるが、三谷幸喜のドラマ・映画で主演を務めるのは今作が初めて(たしか)。
記憶を失った、性格も支持率も最悪な内閣総理大臣を演じる。
お得意の困り顔でオドオドとコミカルに演じるが、コミカルに演じれば演じるほど笑えない。
皮肉にも、劇中のVTRでしか登場しない“記憶を失う前のみんなから嫌われてる総理”の演技の方が面白い。
笑わせるのって難しい。

逆に、今回三谷作品初登場であるディーン・フジオカは良かった。
総理の右腕である知的でクールな秘書をスマートに演じた。
常に表情を変えないこういうキャラの方が、周囲のドタバタに巻き込まれた時により笑える。
オーバーリアクションをしなくても、クールな顔を少し崩すだけでいい。何倍も笑える。
総理本人より、秘書視点で映画を作った方が良かったんじゃないかとも思う。
ちょっと残念なのが、映画的にも重要なポジションなのに、登場がサラッとしている。
どのキャラの時にもいえることだが、印象的なシーン作りができていない。
ここに三谷監督作の一つの弱点がある。

もう一人良かったのは、木村佳乃演じる米国大統領の通訳を演じた、宮澤エマ。
通訳さんの独特の口調を見事にコピーして笑わせてくれた。
太眉でどこを見つめているかわからないどんよりとした眼。ムスッとした表情。
年齢は高めであれ美男美女が揃った今作の中で中々のインパクトを残すおブス顔。
よく知らない人だったので、調べて見ると元がかなりの美人でビックリ!
さらに宮澤喜一元内閣総理大臣の孫だと知ってさらにビックリ‼︎
宮澤エマ、役名はジェット・和田、今作の1番の注目人物です。

一方、木村佳乃演じる米大統領、スーザン・セントジェームス・ナリカワは、元気にハツラツとオーバーに演じていたけど、薄っぺらいだけのキャラクターだったなぁ。
実は日本語ペラペラだっていう設定も、雑。
英語を話すときはテンション高く、日本語になるときは声低めにと、演じ方で差をつけていたけれども、それの見せ方が活かしきれていない。
一つの見せ場であろうスピーチのシーンも、そこまで気持ちが盛り上がらないのが残念。

野党第二党党首役を演じた吉田羊はハマり役だった。
ギャグにはならないあの色気は必見。

ディーン・フジオカと共に秘書官を演じたのが小池栄子。
身体を動かすシーンが何度かあるが、悔しいが笑ってしまう。
「どうこの動き、おもしろいでしょ?」っていうのが前面に顔に出てるのを含めおもしろい。

マイペースな官邸料理人寿賀さんを演じたのは斉藤由貴。
はんなりとしていて、出てくるだけで癒される。
米大統領が中継で「昨夜食べた鴨は火が通り過ぎていて硬い」と言ったのに対し、
テレビに向かって「そんなことないわよ!」と怒鳴る寿賀さんが、この映画の中で一番面白かった。

草刈正雄が、今回のラスボス的立ち位置である内閣官房長官を演じている。『真田丸』や『なつぞら』で見せている大御所感を漂わせながらも飄々としている、みんなが見たがっている愛されるキャラを今回も演じていて、ここはちょっとホッとできる。

出演作に恵まれている今をときめく田中圭も、ストーリー的にはいてもいなくてもいい役だが、それなりに美味しいポジションで出ている。
20年くらい前なら、香取慎吾が演じていたのかなぁと、しみじみ思う。

ほかにキャラクターでいうと、石田ゆり子演じる総理婦人は、可もなく不可もなく、どこか芯のないキャラクターだった。主人公に近しいポジションで、登場場面も多かったけど、キャラクターの意思がないというか、終始浮ついた感じだった。こういうキャラが今作には結構多い。

濱田龍臣演じる総理大臣の息子も、本来なら良いエピソードが紡げるはずなのに、中途半端な絡み方で、こんな子が最後に「将来、総理大臣になりたい」とか言い出しても何のカタルシスもない。

秘書官補を演じたのが迫田孝也。映画を観てる時は、ずっと秘書官補ではなく秘書官かと思っていた。たしかに良い顔つきで、三谷関係者に気に入られてるっぽいが、この役はなくても成立する役だった。
ネクタイが派手っていう個性、映画の3/4過ぎるまで気づかなかった。

お遊びの一つで、ケバーイニュースキャスターを有働由美子アナが演じたけど、これも痛々しかった。おもしろいと思ってやってたのかな?

梶原善とずん飯尾さんの特殊メイクもただの目障り。

近年供給過多気味の佐藤浩市も、三谷作品なら胸焼けせずに観られる。
女装シーンもあり、この役1番の笑わせどころだったのに、頑なにアップで顔を見せないのはどうかしてる。


三谷作品は大好きで、DVDも揃ってるのに、
それでもここ最近の映画の外し具合は擁護できなくて、今作で巻き返してくれよと期待していたのに、やっぱりダメで。

これを言ったらお終いかもだけど、このストーリーを舞台用に直したらまだ面白いんだろうなと、どうしても思ってしまう。
画面をグワングワンさせて悪夢を表現したり、スローにして夫婦が抱き合ったりするようなチープな演出はなくなるだろうし、中井貴一の過剰な演技も、舞台なら映える。

思い返せば思い返すほど残念なことばかり。
やっぱり、また次の新作に期待するしかない。

約20年前にやってたドラマ『総理と呼ばないで』は面白かったなぁ。
あれも性格も支持率も最悪な総理が主人公だった。



以下、上に書ききれなかった良かった点と悪かった点をまとめます。

【良かった点】
・エンドロールが短い。また、キャストの紹介が登場順で、三谷映画らしさが感じられて嬉しい。しかも、劇中では使われてないカットでの紹介。

【悪かった点】
・BGMの入れどころ変。というか、少ない。特に前半。BGMがないせいで、妙に間延びしたシーンになってるところあり。
・記憶喪失になったからって、「さとこ」のイントネーション、あんなに間違えるか?
・ハッピーターン好きな大工が、「ハッピーターン」のことを「ハッピータン」って言うか?ちゃんと「ハッピーターン」って言うだろ!
・記憶喪失でゴルフのクラブの持ち方も忘れるのか?
・スナイパーがパチンコって・・・
・「ネガは古い、メモリースティックだ」このセリフに悲しくなる。
・話にメリハリがない。いつ記憶を取り戻したのかだったりが曖昧。ラスボス倒すタイミングだったり、倒した後の余韻もないし。
・売りである豪華キャストも、たしかに豪華なんだけど、そこまでインパクトはない。