QTaka

ラストレターのQTakaのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
4.0
岩井俊二を見た。
初めから終わりまで、どっぷり浸れる映画だった。
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この映画原作小説の冒頭にこうある

「未咲へ…
僕からの最後のラヴレターだと思って読んでもらえたら幸いである。」

映画では、このことが示されていない。
(ここ、重要だと思うんだけど。)
この映画は、かつての恋人から、もう言葉を交わすことのない恋人(未咲)への最後の手紙だった。
それは、その人をもう一度、深く想い、確認し、そして自らの想いを確かめた、一夏の出来事をしたためた、長くて短い手紙だった。
映画を見たら、この小説も読みたくなる。
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岩井組オールスターキャストと言うべき、バラエティーあふれる、そして懐かしい出演者たちの共演だった。
これだけ、それぞれに思い入れの深い役者たちを集めながら、決してばらけることもなく、むしろしっとりと調和が取れていて、さらに新しい顔ぶれを交えた映像が生まれたのは、正に岩井マジックなのか。
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冒頭、滝と清流に遊ぶ子供たちのシーン
緑の濃い自然の風景から始まるが、この場面が何なのか、すぐに明らかになる。
カメラはすーっと上空へ昇る。(何かを暗示するように)
ちょっとこのカメラワークには、ドキッとした。
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この冒頭も含め、緑に包まれた田舎と、夏の風景には、”音”が重要なキャストだったという。
滝を流れ落ちる水の音。やかましく鳴き続ける蟬の音。
冒頭から、この音に取り込まれていたんだと想う。
同時に、夏の日差しをスクリーンいっぱいに感じる。
緑の木々からこぼれ落ちる木漏れ日や、水面を照らし輝く光。
学校をめぐる回想シーンでも、そこは夏の日差しで溢れていた。
”日差しの強い夏の日中”
そんな場面が多かった。
雨の場面は、2ヶ所だけ?
思い起こした学校のシーン。
朽ちかけた校舎のシーン。
いずれも、窓外に夏の日差し。
図書館のシーンも魅力的だった。
並ぶ書棚に、整然と配置された書籍。
机が並ぶ向こうに、大きな窓越しに 緑溢れる木々。
静な図書館に優しく差し込む陽の光。
窓越しの日差しは、人を照らし。
そこにある表情、感情を照らし出す。
時を超えて、人を思う時。
そこに誰かの姿を見つけた時。
心を揺り動かされる瞬間。
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すべてのシーンが、それぞれに語りかけてくる。
すべてのセリフが、心を揺らす。
すべてが美しく、愛おしい。
っと、シーンごとに感じ入っていて、全体像を見失っちゃ居ないか?
そんなことはない。
そこは、きっちりつなぎ止めてくれるのも、ストーリー展開の妙。
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物語は、複雑な手紙のやり取りで、出会うはずの無い、世代を超えた少女と大人が空白の時を埋めていく。
よくまぁこの展開をまとめたことだと想う。
そして、姉とその恋人の関係を締めるセリフが…
「誰かがその人のことを思い続けたら、死んだ人も生きていることになるんじゃないでしょうか」
一人の女性をめぐる、妹、恋人、娘、そしてその時々の多くの人々の物語は、それぞれの心の内を明らかにして行った。
想うこと、想い続けることは、決して無意ではないのだろう。
大切な人、大切だった人、その人との関係は、時とともに消えてしまうものなのだろうか。
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映画の中の(「最後の手紙」=)”遺書”は、卒業式の原稿だった。
この原稿は、映画の中で何度か出てくる。
1度目は、同窓会でカセットテープで肉声とともに。
2度目は、卒業式を前に、鏡史郎に原稿を依頼した階段のシーン。
そして、ラストシーンで、「遺書」と書かれた封筒から原稿をとり出した娘(鮎美)がそれを読む。
なぜ「遺書」がこの原稿だったのだ。
原稿に有る通り、
「つらいことがあった時、生きているのが苦しくなった時、
きっと私たちは幾度もこの場所を想い出すのでしょう。
自分の夢や可能性がまだ無限に思えたこの場所を。
お互いが等しく尊く輝いていたこの場所を。」
  
”輝いていた頃”の自分に宛てた手紙だったのだろうか。
彼女は、”あの尊く輝いていた”高校時代に戻りたかったのだろう。
そして、この夏の出会いを通じて、娘は、母の帰りたかったその時を少しでも感じられたのだろう。
遺書は、こうして母から娘へ、その真の姿を含めて伝わったのだろう。
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気になったアイテム
『ローライ35』
乙坂鏡史郎が、壊される旧校舎を訪れた時に手にしているカメラ。
ここで、あえてフィルムカメラを持つのも、時の流れを遡るようでイイ。
それも、”ローライ35”(詳しい型までは未確認)というのがイイですね。
35ミリフィルムカメラで最小にして、最強。
操作性も、描画性も、堅牢性も兼ね備えた、唯一無二のカメラです。
私も所有していますが、しばらく手にしていません。
ちょっと引っ張り出して見ますかね。
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言葉を綴る”手紙””原稿””小説”
言葉って、残るんですね。
手紙も原稿も、そして小説も。
そうして、文字に残したものは、時として共有される。
あるいは、それは時を超えて共有される。
この物語は、一夏の出来事でありながら、タイムマシンのように時を超え、人のつながりを明らかにし、取り返しのつかない想いを蘇らせる。
それは、時に残酷な一面を見せながら、それぞれの想いを紡ぐことで、優しい真実へたどり着く。
静に流れる物語ではありますが、何度も大きな波が押し寄せてくるストーリーでありました。
さすが、岩井俊二監督。
天晴れ!
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