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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のtsuboのレビュー・感想・評価

4.0
『バービー』のグレタ・ガーウィグ監督作。
『若草物語』の現代風語り直し。

19世紀、家庭の天使であることを求められた女性たちにとって、よりよく生きるためには財産のある男性と結婚することが最大の関心事であった。というよりも、社会構造が女性の生き方をそのように限定していた。

本作を観て最も想起されたのは、オースティンの『高慢と偏見』である。プロポーズを断る場面は一種のパスティーシュなのだろう。次女を主人公にしている点も共通している。日本では最近『傲慢と善良』というパスティーシュがベストセラーとなっているが、結婚小説を懐疑的に読む潮流が今世紀では重宝をされているようだ。

ただし、結婚が大団円であるという結末をよしとしない文学作品は、19世紀の中頃から増えてくる。例えば、ディケンズは『デイヴィッド・コパフィールド』で結婚の失敗を描き、E・M・フォースターは『ハワーズ・エンド』で結婚のロマンス化を否定し、結婚に孕む負の要素をきちんと描いている。

また、これは非常に私的なことだが、ベートーヴェンの「悲愴」が映画で流れると涙腺が弱い。『心が叫びたがってるんだ』がその個人的嚆矢である。

あと、フェミニズムを意識した作品であるからこそ、劇中劇が『十二夜』である点は上手いと思った。シェイクスピアの中でも、とりわけ現代の文脈で論じられる作品だからである。四女が劇中、「男であれ 女であれ 私は中庸なの」という台詞があるが、まさに『十二夜』のヴァイオラである。

最後に、邦題が本作はいいなと思った。
相変わらず、副題を付けるところは説明的でセンスはないのだが、今回はよしとする。ワン・ダイレクション世代の私にとっては、秀逸なタイトルと言わざるを得ない。
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