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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のTEPPEIのレビュー・感想・評価

4.8
満点評価で絶賛した「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ監督がまた素晴らしい映画を生んだ! 何度か映画化もされているルイーズ・メイ・オルコット著の「若草物語」(Little Women)は19世紀後半アメリカ、コンコードに住むマーチ家の4人姉妹を描く物語。著者の半自伝的な作品であり、時代背景や登場人物の心をものすごく繊細に書いている。自分は一巻しか読んだことがないのだが、グレタ・ガーウィグが4人姉妹の次女、ジョーにフォーカスして「若草物語」を描くと聞いた時は大興奮。
小説家という表現者が苦悩して、成功を掴むまでの心の葛藤、出会い、別れも描かれる。製作者の意図を無視しているクソみたいな邦題はさておき(というかもはや意味不明)、「Little Women」は古典的作品の映画化でありながらも、現代にも通ずるテーマを扱い古臭さが一切ない、全く新しい若草物語となっている。

原作とは違う、時系列をバラバラにした演出が功を奏し、4姉妹と彼女を取り巻く環境の変化が面白い。特筆すべきは、映像の美しさ、衣装のこだわり、そしてこの作品のキャスト全員の演技が上手すぎる。

主人公である次女ジョーを演じたシアーシャ・ローナンは見事GG賞で主演女優賞を受賞。監督前作の「レディ・バード」に続き主演登板となったが、演技力は別次元。その別次元とはまた違うサプライズを見せてくれたのが、末っ子のエイミーを演じたフローレンス・ピューだ。「ミッドサマー」とは人が違うように、人懐っこく頑固者であるエイミーがこの映画のキーパーソンとなって爪痕を残した。
ローラ・ダーンのコンコードにいる温かみのある母親演じさせたら間違いないのも凄いし、エマ・ワトソンなんて長女のメグを演じたはずなのに彼女が現在30歳っていうのも、なんだか物凄く感慨深い。

「アンナ・カレーニナ」に続く2度目のオスカー衣装デザイン賞を受賞したジャクリーン・デュランのこだわりも素晴らしい。衣装の明るさや、モダンの感じを漂わせる工夫はキャラクター1人1人の心に合わせたドレスや色みを用意することだった。四姉妹の特色を演技だけでなく、衣装でも表現してしかもそれに違和感を持たせないあたり抜かりがない。これも演出指示のグレタ・ガーウィグ監督の手腕の高さが伺える。
ここまで大女優メリル・ストリープが喰われるのも珍しいのではないか。

古典的作品のはずなのに、今更なんで若草物語?と感じさせないのは、このスマートな演出と現代でも語るべき物語があって、歴史はそれを時に超越することがあると証明した映画である。タイムリーではあるが、既存しているあらゆる問題をなくそうと向き合う事と、問題をなかったことにする事には大きな差がある。こんなネガな世の中で、夢に向かって走る少女たちの生きる姿を見て何だか幸福になる。

総評として「Little Women」はルイーズ・メイ・オルコットに計り知れないリスペクト精神を持って、良質な古典的要素は残しつつ、巧みな演出、魅力的なキャスト達が揃っている。少しドラマチックすぎる箇所もあるが、笑って泣ける物語である。
久々に映画館で笑って泣くを体験したので、ますますグレタ・ガーウィグ監督作品が楽しみだ。うむ、個人的にはグレタ・ガーウィグ監督は本作といい、「レディ・バード」と言い、十分オスカー監督賞にふさわしいと思うのだが。きっと彼女なら取るだろう。あとシアーシャ・ローナンはあと数年でオスカー取るなこれは。
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