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恐怖の報酬 オリジナル完全版のRのレビュー・感想・評価

4.3
ウィリアム フリードキン監督の本作を見るのは初めてであり、非常に楽しみにしておりました。というのも、まず何よりL.A.大捜査線、クルージング、エクソシスト、フレンチコネクションなどフリードキン監督の作品が大好きであるということ、そして、1953年のアンリ ジョルジュ クルーゾー監督による同原作の『恐怖の報酬』がめちゃくちゃ好きというのがありましたため。見始める前からワクワクが止まりませんでしたが、見終わった後の感想……後半はめちゃくちゃ面白い! 面白いのだが……残念ながらクルーゾー版のほうがインパクトがだいぶ上だなと。本作は本作で確かにめちゃくちゃすごい。さすがフリードキン作品としか言いようのない凄まじい迫力がみなぎっている。ただ、個人的には、前半が少々ビミョーだったかなーーーーそれが後半にも少し響いてしまった。前半は、4人の主要登場人物が描かれていくんすけど、まず、いきなりものすごくゴタゴタした喧騒の中で、最も記憶に残りにくい二人の人物、メキシコのニーロとイスラエルのマルティネスのエピソードが描かれる。この二人がまったく記憶に残らない。おそらくその理由は、この二人の人格に関する描写がまったくないからじゃないかな? なので、その次の二人が描かれてる間に、この2人が記憶から抜け落ちてしまう。次の人は、パリで不正取引してるのがバレてしまって、妻を残して雲隠れするセラーノ、最後は、アメリカでアイリッシュマフィアが教会を襲撃して神父を射殺、その逃走中に事故を起こしてしまい、現場から這々の体で逃げおおせたドミンゲス。最初の二人より次の2人の方がドラマが濃いんです。以上4人が南米の小さな村に身を潜めるためにやってきている。で、同じ頃、村から300キロほど離れた油田で火災が発生。火の勢いが凄すぎるため、ニトログリセリンを爆発させてその爆風で消火するしかないと判断される、ところが倉庫の中のニトログリセリンは保管状態がよろしくなかったため、ほんの少しの衝撃で爆発してしまう可能性が……というわけで、トラック2台でこの厄介な爆発物を運搬することになり、ドライバーとして数多くの応募者の中から、最終的にトラックを操縦することになるのが、最初に出て来る4人なのです。あと、最後の一人が決定するあたりのやりとりも、冒頭の分かりにくさのせいで、少々伝わりにくかった。もしかしたら、パリとアメリカの二人を先に描いて、あとでニーロとマルティネスを描いた方が記憶に残りやすかったんじゃないかなと思ったりしたけど、そういうわけにはいかなかったのでしょうか。で、ここから、グラグラ揺れまくるトラックに件のニトログリセリンを載せて、いざヒヤヒヤで出発するのだが、彼らを待ち受けていたのは、危険極まりない過酷なジャーニーだった! という流れで、まず、面白かったポイントとして、冒頭に比較的キャラクターを濃ゆめに描かれたパリとアメリカのふたりが、別々のトラックに乗り込むということ。見ている方としては、このふたりが一緒に乗ってくれると、このふたりがメインやから、こいつらふたりともが爆発で吹っ飛ばされて死ぬということはあるまい、と安心して見れるのだが、ふたりが別々のトラックに乗ることによって、どちらかが爆発してしまうのでは……というスリルを加えている。ただ、どの役者がメインであるかを考えると、ちょっとスリルが減少してしまっているのは否めない。そういう意味では、クルーゾー版の方がより先が読みにくいといえるのでは。さーそして、本作の大きな難関はいくつあったかなーっていうのをここで言ってしまうとネタバレになるので言いませんが、二つ目がすごかった! これが本作の最大のスペクタクル!!! 本作のジャケ写にもなっているシーンなのだが…これマジどうやって撮影したんすか⁈と問いただしたくなるような凄まじいシーンで、簡単に言うと、とんでもない悪天候の薄暗くておどろおどろしい雰囲気のなか、怪物にしか見えないすごい重量のガチガチに堅牢なトラックが、頼りない吊り橋を渡らないといけないのです。これたぶんほんとにガチで撮影してるよね、ねぇしてますよね? よくこの吊り橋でこのトラックを支えることができたな! 傾いてるシーンとかやばくないすか。(このやばさ、昔見たヴェルナー ヘルツォーク監督のフィッツカラルドというクレイジーな映画を思い出しました。) しかも、ジャケ写をよくよくご覧ください。トラックの前にちょこんと何かがあるでしょう。これがまたさらなるスリルを生むのです。もうやめて、やめてくれーーーーー!!! と心が叫んでいた。いやーもーひやひやしすぎた。ほんでいくつかの難関の後に、ちょっとしたピースフルなシーンが挿入されるやん、と思ったら……なんですよね。えっ!!! ってなって3回くらい早戻しして見直してしまった。ただ、このシーンの衝撃は、実はクルーゾー版の描写の方がハイレベルだと思ったし、吊り橋上のトラックと人のスリルシーンも、クルーゾー版にある終盤のシーンの方が衝撃度が高いと思われます。その大体の理由は、やっぱ人物描写にあるんじゃないかなーと思う。クルーゾー版の方が人物描写が深く、ゆえにそれぞれのキャラ達に対する感情移入度が高いのであるが、本作は、人物描写がそれほどなく、かなりアクション重視なので、特に心情的にドキッとするシーンはないんですよね。比較ばかりになって申し訳ないですが、似てる作品だからしょうがない。クルーゾー版の恐怖の報酬があまりなも文句なしの大傑作なので、ますますしょうがないですが。ただ、本作も、かなり面白いし、映画としての見どころは山ほどあります。特に、ジャングルの中をトラックが進んでいく様子は、言葉では書き表すことのできない、摩訶不思議な高揚感で心がいっぱいになる。特に弾力のある大きくな葉っぱの間を進んでいくショットはなんかはゾクゾク来ます。素晴らしい。あ!あと、サントラ、特にタンジェリンドリームのメインテーマは最高すね! 心をじわじわと蝕んでくる悪夢の響きがしている! これはハマる! 見終わってからずっと聴いている! そして、そして、あまりにもニヒリスティックなエンディング! アッ!と言わされました! で、すべて終わって思うのが、この映画はキャラクターのイメージがよりよく把握できた後で見る、2回目のほうがぜんぜん楽しめるんじゃないかということ。そのうち2回目見て感想が変わったら、もう一度レビュー書きたいと思います。
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