Ricola

ラ・ポワント・クールトのRicolaのレビュー・感想・評価

ラ・ポワント・クールト(1955年製作の映画)
3.6
倦怠期のカップルの対話が、寂れた港町の美しくも荒涼とした光景を背景に淡々と映し出されていく。

「模様」として浮かび上がるショットは、ときに神秘的で異様にときに残酷にカップルの現実を静かに語りうる。


規則的に物が並んだ風景のショットは、まるで幾何学模様のアートのよう。
洗濯物が強風に煽られて勢いよくなびく様子や、いくつも行き先のある入り組んだ線路とその上に覆うように張られている電線のショットの美しさ。
さらには湖沿いに掲げられている多くの漁業用の網や、湖上に丸く網を張ってボートからそれを引っ張って魚を捕る様子は、左右対称のショット構成となっている。船の骨組み構造も、まるで鯨か何か大きな生き物の体内のようであり、その骨組みがショット全体に張り巡らされているように見える。

ショット全体を「模様」として捉えたショットはもちろんだが、それ自体が「模様」であるものにフォーカスした演出も注目すべき点ではないか。
例えば、女がフレームアウトすると、男の横顔を乗り越えてカメラはその奥にある材木に近づいていくシーン。
続く彼らの会話においても材木が映し出され、彼女が横の方に視線をやるショットの後には船か何かの木組みの一部が映っている。

また作品の冒頭およびオープニングクレジットの背景では、椅子の木目のクロースアップが利用されていた。
他にも穏やかな川の規則正しく織り込まれたような波の動きや、彼らの泊まる部屋のベッドの掛け布団の柄にもやたらとカメラはフォーカスする。
ショットの一部分が急に一つのショットとして現れる演出が見られるのだ。

別れたほうがいいと言う彼女と別れたくないと言う彼。
彼の横顔と彼女の正面の顔の半分を組み合わせた、一人の人物に見立てた騙し絵のようなショットから、彼女ひとりを捉えた真正面のクロースショットへ。
(ちなみにこの「騙し絵」ショットは、彼と彼女の入れ替わったバージョンも後に見られる。)
自分たちの愛を他者のもののように観察するようになったという彼女。
彼はそのなかに自分たちがいることを主張する。だけど議論は平行線をたどる。
二人がそれぞれ立ち上がって距離のある構図では、彼らの前に湖が広がっており、二人を分かつように細長い棒と湖の奥まで続く小石の集合体が連なっている。途中でボートに腰掛けた彼の隣に彼女は移動する。
また他のシーンでは、大きな木組みが彼らを分かつこともある。
彼らは別れるのか別れないのか、天秤にかけるようにどちらに比重がいくかによって、彼らの間に境界線が現れることで分けられたり、しかしすぐにそれを越えて一緒になったりという、カップルの揺れ動く気持ちと関係性が、ショット全体で表現されているのだ。

港町に猫はつきものである。
作中に何度もさまざまな猫が登場する。
主人公だけでなく、他の女性登場人物の感情や心情を猫が代弁、もしくは猫にリンクさせている。
彼に冷めている彼女の心境を、そっぽを向いた猫にフォーカスを当てることで表現したり、
年頃の少女が青年を目で追うシーンでは、彼女の手前にいる猫も彼の方を見つめているといった見せ方をしている。

カップルの直面している現実と彼らの感情のせめぎあいが、なまなましい自然や無機質な木や網などのモチーフによってあくまでもヴァルダの冷徹な視線で鋭く表されていたようだった。
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