不在

ラ・ポワント・クールトの不在のレビュー・感想・評価

ラ・ポワント・クールト(1955年製作の映画)
5.0
はっきりとした輪郭をもたない小さな村。
そこにあるすべてものは絶えずゆらぎ、たわみ、きしむ。
何ひとつとして同じ形のまま留まっているものはない。
その田舎の村は、とある男の故郷だった。
自身の浮気が原因で妻から離婚をほのめかされているこの男は、自分の故郷に妻を招く。
誰かの故郷に触れるということは、その人の全人生に触れるのに等しい。
だからこそ男は妻をそこへ呼んだのだ。

そんな夫と村を見てまわるうちに、妻は彼のことが少しずつ分かり始めてくる。
この村には、都会のように確かな基盤の上にたっているものなどひとつもない。
すこしの風で木々はさざめき、水は優しくせせらぐ。
自然に基礎などなく、すべてがなだらかな線でできている。
思えば人間だってそうだ。
直線の大都市、パリで生まれ育った妻には、これがとても新鮮だった。
時に美しく、時に残酷なまでに移ろい続けるこの村の風景は、まさしくこの男の心そのものだったのだ。
それに気付いた妻は、夫と共にパリへ戻ることを決心する。
冷たくまっすぐな線に囲まれて、それでも曖昧に生きるために。
不在

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