ジェイコブ

37セカンズのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

生まれつき脳性麻痺を患い、車椅子での生活を余儀なくされているユマ。普段は人気漫画家で親友のYoutuberサヤカのゴーストライターとして活動しているが、編集から言われた一言をきっかけに、自分の作品を描きたいと思う意欲に駆られる。自分の作品を生み出すためには、自身の人生経験が乏しい事を知ったユマは、過保護な母親に反発するかのように、夜遊びに興じていく。母親との関係が悪くなったユマは、次第に幼い頃に家を出た父親を探すようになる……。
アメリカと日本(NHK)の合作映画。タイトルの37セカンズはユマが障害を背負う原因となった、生まれてから息をしていなかった37秒(セカンズ)からきている。障害を持つ女性ユマの苦悩と葛藤、彼女を取り巻く周囲の人々との関係性がリアルに描かれている。特に、親友と称するサヤカが、障害を持つからという理由で、ユマを自身の踏み台にしている姿は、正に健常者に搾取される障害者という現代社会の構図を表している。他にも、初体験を迎える恐怖のあまり失禁してしまうユマ、ユマと同い年の健常者の子供を持つ親と、同じような親子の関係性を築けないことで娘に辛く当たるユマの母親恭子の姿など、誰にとっても身近な存在であるはずなのに、目を背けようとする身体障害者の問題を生々しいほどに描いている。
実の親であるはずの恭子や、ユマが今まで出会ってきた人達は皆、ユマの「障害」にしか目に入らなかったのに対し、舞や俊哉を始め、夜の街で出会った人達はユマを一人の「人」として扱った。ゲイバーで働く人々など、身体障害者でなくてもユマと同じように社会で生き辛さを感じる人はいて、そういった人々だからこそ通じ合えるものがあるのだろう。
一つ気になった点は、実の父親の実家を訪ねたユマが家族に関する衝撃的な事実を教えられ、タイへ向かうことになるのだが、それが映画の後半であったため、展開がご都合主義に見えてしまっただろう。事実の内容も内容だけに、もっと早い段階でユマに知らせるか、あるいは写真や絵葉書という形でさりげなく伏線を張っておいた方が、タイへ行く流れをより自然に見せる事ができたのではないかと感じた。ただ、タイから戻り、家に帰ったユマが恭子に思い出を見せる際、写真ではなくイラストで見せた場面は非常に胸が熱くなった。このシーンには、ユマの個性が詰まっているだけでなく、彼女が今後やっていきたい事を母に示す意思表示の意味も込められている。この場面があるからこそ、ラストシーンの太陽の下で明るく堂々と進むユマの表情が活きている。
NHKのバリバラというバラエティで繰り返し語られているのは、身体障害者の望みは、健常者も身体障害者も同じ「人」と認識してほしいということである。障害者だから全員を「聖人」と見たり、分厚いフィルターをかけて必要以上にできる事の可能性を狭める事は、真のバリアフリー社会の実現を遠ざける事となる。ユマという一人の「女性」を通して、自分らしく生きるとはなにか?を問いかける社会派映画。