マーカー

37セカンズのマーカーのネタバレレビュー・内容・結末

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

「障がいを持って生まれた人」と「健常者」の区別は、障がいの有無という物理的なものだろうか、それとも私達人間の眼というフィルターを通してしか存在し得ない、ある種仮想的なものだろうか。
時に人は、障がい者の性に目を背ける。
ゆまが声をかけたキャッチも、買った男も、若干の奇異の目をむけながら、それを悟られないように取り繕うろうな態度を取る。少なくとも、他の客に向けるのとは異なる視線をゆまにむける。
「障がいを持って生まれた子供は天使の子、心が純粋で優しい子」という言説を、今まで何度も聞いたことがあるが、ものを食べ、寝る人間なのであるから、性欲や、性に関する羞恥だけが抜け落ちるわけがない。良く言おうが悪く言おうが、区別し、特殊フィルターをかけて見ていることに変わりはないのだ。
ゆまのお母さんは、ゆまの部屋で大人のおもちゃを見つけると狼狽し、ゆまの変化を最初は受け入れようとしなかった。
しかし、物語の当初から、ゆまは自分のもつ漫画の才能を活かして(名義は自分ではないにせよ)、生計を立てており、しかも自分名義で漫画を持ち込み、現状を変えようとしていた。ゆまは、当初から、与えられる弱者ではなく、漫画という媒体で、自分の世界を表現し、世界に自分を発信していた。
本作は、何もできなかった弱い障がい者が、理解ある周囲の人たちとの出会いによって成長し、変化する物語ではない。
最初から、表現し、外に発信する自力を持っていたゆまはとても強い存在であり、それを受信してくれる人たちと出会ったことで、「 私が私として生まれてきてよかった」と現状を受け入れたのだ。
ゆまを弱い存在としてきたのは、あくまでも周りの眼である。物語の最後、ゆまは、自分の強さを受け入れてくれる自分自身の眼を手に入れたのだ。
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