QTaka

37セカンズのQTakaのレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.5
「障害者の映画」ではない。
一人の少女の冒険と成長の映画だ。
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彼女は、たまたまこの世間の中で、生きづらい立場にあるのだけれども。
だからと言って、自由な生き方を諦める必要などない。
彼女は、生き方を選べるし、思うように生きていけるし、それを見守り、あるいは手を差し伸べてくれる人はいくらでもいるのだ。
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女優「佳山明」
”素人”というより、”新人”女優という方がいいのかもしれない。
それは、演技とは思えないほど自然だったし、彼女はベテラン俳優たちの中で、確実に主人公を演じていた。
もちろん、脇を固める俳優たちの演技が彼女を支えていたのだろうけども、その演技に違和感はなかった。
それも監督の演出のなせる技なのか。
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ストーリー展開が、どんどん大きく広がっていく。
車椅子での生活となると、その生活圏は限られた範囲におさめられ、登場人物もそれなりの範囲で、あるいはその行動も特定のものになるように思ったのだが。
彼女の行動や物語の登場人物は、そうではなかった。
タブレットを使いこなし、PCを使いこなし、漫画を描くことで、表現し、伝える力を手にしていた。
それは、単に経済的な力ということに収まらず、自分の存在そのものを見失わない支えになっていた。
そんな日常から始まる物語なのだけど、この冒頭で、結構何とかなるものだということと、同時に実社会が本当に車椅子に優しいのかどうかという疑問も湧いてきた。
”弱者”という立場は否めない。それは彼女の仕事ゴーストライターとしての扱いにおいてもそうだった。
そんな彼女が小さな冒険を始める。おかれている現状を脱しようと思い立つ。
ここからがこの物語のドライブしていくところ。
この物語のギアチェンジのエピソードが面白かった。
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夜の街へ足を踏み出したあたりからが面白い。
その場面を、面白い登場人物が支えてくれる。
呼び込みの男役に、渋川清彦さん。
何だかわからないけど、優しいおっさんだったね〜。
ラブホで助けてくれた、よく訳のわからない二人。
渡辺真起子さんのはまり役。本当に良かった。
このキャラクターの醸し出す幸福感。
圧倒的に頼りがいがあって、底抜けに明るくて、全てを見通しているような。
一緒に車椅子で登場した熊篠慶彦さんはすごい人だった。
役者ではなく、本職(?)の方。
世の中には、こうして本当に障害者の立場で活躍しておられる方がいるのだと知った。
そして、本当に役者みたいですごかった。
車椅子を押して、大冒険の旅に同行することになる青年役の大東駿介さんの存在しない存在感がうま過ぎ。
そこは、貴田ユマ(佳山明)の旅であったのだから、あまり目立っても変だし、でもそこにいてくれなければ成り立たないし。
そういう、存在感というのも難しい。
こうしてみると、豪華なキャストが車椅子の少女を支え続ける。
でも、やはりユマが自ら進まなければこのストーリーは動かなかった。
その小さな前進を、周りの人々が次々と後押しして、ストーリーは加速する。
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小さな冒険から大冒険へ
夜の街への小さな冒険から始まり、様々な出会いが物語を加速する。
一見奇妙な出会いの場面が、スクリーンを面白くしてくれるし、物語に弾みがつく。
一人ひとりのキャラクターがいいんだろうな。
脱線していくストーリーと並行して、彼女の本職の漫画の話も進む。
そこでの出会いも面白い。エロ漫画の編集さんとの出会い。
後にこの出会いが未来を引き寄せるというのも、無駄のないストーリ展開でしたね。
お母さんの監視の元からの脱走もちょっとスリリングで良かった。
ここで石橋静河さんが作業療法士として登場。この雰囲気、その仕草。いい感じです。
そして夜の街で出会った介護士の青年とともに大冒険に出ることになる。
その旅は、忘れ去られた家族とのつながりを紡ぐ旅。
この展開が、ストーリーを一段と広げ、物語のゆくえにワクワクし始める。
タイの風景。街並み、人の流れ、その表情。
鉄道に揺られ、一面の緑の風景の中に、真っ白なサギの姿。
そんな異国の地での再会。
いつの間にか、大きな冒険ストーリーになっていた。
再会は、家族の繋がりの確認でもあり、この物語の終点でもあった。
そして、旅は、少女に生きる自信と力を植えつけてくれたのだろう。
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エンディングの姿
家に戻って、母親に、姉との再会を報告して。
母親の涙は、帰ってきたことへの安堵なのか、子の成長への喜びなのか、双子の成長と繋がりを確認したことへの安堵なのか。
ユマ自身は、漫画家としての一歩を認められる。
そして、車椅子で街を行くその姿には、弱々しさなどなく、むしろ自信と力がみなぎっていた。
この姿を描くために、このエンディングのためにこの物語は有ったのだと、よくわかった。
完璧だ。
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雑記
”車椅子映画”とでも言うのだろうか。そういうジャンルが自分にはできていた。
『ジョゼと虎と魚たち』 (2003)監督:犬童一心
『最強のふたり』(2011) 監督:エリック・トレダノ,オリヴィエ・ナカシュ
この二本、物語の内容は全く異なるのだけれども、そのシーンや人物の関係などは実によく似ている。
あるいは、シーンの割り振りなども同じだったりする。
特徴的な場面(浜辺のシーン・ドライブするシーン・車いすで疾走するシーン)もよく似ている。
(さらに、この二作のポスターは、ソックリだ。)
視点も背景も全く異なるのに、車椅子で生活する主人公と人々の姿を描いたときに、何か似てくるのかもしれない。
そして本作もその並びにあると思う。
それは、ラストシーンに全て集約されている。
つまり、誰にも負けない一人の存在がそこに生まれてくるということだと思う。
「障害」というが、それはその人が背負っているものではないのかもしれない。
むしろ、その周囲にこそ「障害」が有って、それが問題なのだと。
一方、本人には、「希望」しかないのかもしれない。
その希望を受け入れる社会が必要なのだと思う。
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