映画好きの柴犬

37セカンズの映画好きの柴犬のレビュー・感想・評価

37セカンズ(2019年製作の映画)
4.0
タブーで始まり、可能性で終わる

 ベルリン映画祭受賞作が、2月の劇場公開から早くもNetflixで配信。社会派の作品でありながら、観賞後の余韻が爽やかで、主演の佳山明のキュートさも魅力的な良作。

 冒頭、帰宅したユマを母がお風呂に入れるシーンの生々しさから、一瞬ドキュメンタリーだったけと思ってしまう。そこから、障がい者を取り巻く有形無形の制約が描き出される。それは、偏見によるものもあれば、単なる思い込みだったりもするし、善意や責任感によるものもある。障がい者と本当の意味で普通に接することは難しい。

 障がい者の性を扱った作品はいくつかあるけれど、本作はそこにとどまらず、そこを入り口として障がい者の可能性を妨げるもの全般に話が広がっていくところがいい。後半、思いがけない事実の発覚から展開するストーリーはちょっとファンタジックではあるけれど、前半の重さから解き放たれて軽やかな余韻を残してくれる。

 オーディションで選ばれた実際に脳性麻痺を患う佳山明の体当たりの演技が素晴らしい。囁くような声と、聖母のような微笑みが印象的。ユマの人生を変えるきっかけとなる渡辺真紀子、板谷由夏の二人の姉御女優を始め、ユマの世話に人生の全てを捧げてちょっと拗らせ気味の母を演じる神野三鈴ら、実力派の名バイプレイヤーたちの演技も見もの。