ルサチマ

天竜区旧水窪町 祇園の日、大沢釜下ノ滝のルサチマのレビュー・感想・評価

5.0
2021年8月18日 @アテネフランセ

最寄りというにはあまりにも離れているであろう天竜区の駅と堀禎一が取材地と定めた奥領家大沢までの位置関係を駅、釣り人のいる川、山の中腹、山を登った先から見える大沢の集落という見事なデクパージュで提示する。茶葉を摘み終えた夏にじゃがいもを掘り起こす別所さんの姿や犬のジョンをカメラに捉え、滝へと遊びに行くかのようにカメラを水流にクロースアップする。ここでも『別所製茶工場』同様に工場付近での夜の光景は巧みに隠蔽される代わりに、再び山間を走り抜ける電車の姿を捉えた後に天竜区旧水窪町の住宅へとヴァカンスを移行し、祇園の日の子供たちの夜の生活(遊び)がついに明かされる。
旧水窪町の夜とは決して資本主義社会が産んだ昼へ向けた生産のための休息のためでも、生を生き直すための時間でも無く、つかの間の遊びに他ならず、生産活動から解き放たれた純然たる時間と空間との戯れの映画的幸福に満ちた景色だ。


2020年7月18日 @神戸映画資料館

別所製茶工場が工場の出口だとするならばこちらは地上の列車の到着から始まる。こんなに涼しげな夏の景色がある日本とその景色を涼しげに撮ることのできる監督がいたことの喜び。風で揺れる森の木を下から仰角で撮る時の樹木と風の質感に驚嘆する。ジャック・タチ『ぼくの伯父さんの休暇』の花火に対抗できる花火があるとしたらこの日本の天竜区という土地で遥か遠くの商店街に構えたカメラが捉えた見切れまくりの花火かもしれない。撮影者自身が旅行者の立場として記録したヴァカンス映画だ。山を写したロングショットにバカでかい鳥の鳴き声が被せられる。
ルサチマ

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