まりぃくりすてぃ

イーちゃんの白い杖のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

イーちゃんの白い杖(2018年製作の映画)
4.9
観ちゃったらもう思うんだ。これ観ないっていう選択肢はこの世にありえない、と。

全盲の少女イオリちゃんが、「天井」というものを理解するために、先生の指示で教室の窓際に机を積み上げたてっぺんにまで上らされて天井に手を触れる、けっこうハラハラなシーンに、並みの映画10本ぶんぐらいの「真実」が詰まってた!
もちろんドキュメンタリーだから嘘は元々ないわけなんだけど、「本当である本当」がこれほど重く来るドキュメンタリーは稀有かも。そもそも軽いはずなどなく、全盲の姉イオリと、全盲+寝たきりの弟イブキ。(呼ぼうと思えばどっちもイーちゃんだ。いちおう、イオリが主役。)そして父、母、祖父母の、六人家族。みんなで力を合わせる! 姉弟の心の絆が凄い! その20~30年間の記録。いやもう、私ごときが泣きっぱなしだったからどうだこうだとかじゃなく。
一つ、ちっちゃなイオリがピアノを弾きながらオリジナルなお話(童話みたいの)をぽっぽこぽつぽつ語るチャーミングなシーンは、ピアノとイオリが黒いシルエットで、背後が別色の闇で、、、罰当たりに陶酔できるぐらい美しかった。
天使の笑顔。弟の。そんなふうに画や音で多くを語れてた。ところが、撮り足しを増やしていく中で、後半に変化が。
まず、イオリがいじめに遭う中学時代が、撮影不許可の時代と重なってた。彼女が自殺をその頃に思ったことが後で明かされる、そんなのもふくめてドキュメンタリーとして正道の感。
イオリに恋人ができる。「展開」としてみれば唐突さがなくもない。しかもカレの魅力が撮られる前に、イオリの口によって語られる語られる。説明映画になってる。しかし、イオリのハキハキした口調そのものに、私たちは一つの真実をやっぱりもらう。じつはこの映画は、イオリが朗らかに理路整然と彼女自身を語る映画なのだ、というイビツでもない構造がはっきりしてくるわけだ。
彼女は自殺を一度しか思ったことがないんだと。一度きりというのが私には驚異だ。私はそういうことを思い始めれば千回でも万回でも思い詰めるタイプだから。
平凡展開でもいいからラストに結婚式が見たかったな。。。。


ナレーションが「相模原障碍者施設殺傷事件」のことに触れたのは、気に食わない。ゆえに減点。社会の誰への批判も口にせずひたすらにひたすらに歩みつづけてるイーちゃんとその家族の映画なのに、制作者が突如社会のことで煽ってきたのは、邪魔っけだったよ。「大震災」とかそういうこと一切出てこない中で相模原だけだ。イーちゃんたちがそうしてくれと頼んだのじゃないのなら、削除したほうがいいな。イーちゃんたちの姿を私たちが(ささやかにでも)我が事として受け止めれば、それだけでいいんだから。