留

METライブビューイング2018-19 プッチーニ「西部の娘」の留のレビュー・感想・評価

3.7
まだ3幕が残ってるが、実に面白い。大嫌いなプッチーニの扇情的なとこが感じられず、心理的にドラマチックだ。
音楽も新しい。観に来てよかった。
******
全部見終わったが、異様ともいえるハッピーエンドで現在のトランプ政権やアメリカの銃社会の批判とも取れる。
1910年にMETの委嘱で作曲されたとのことなので、西部のカウボーイ、つまりアメリカ人が全員善人なのだ。ちょっと前まで盗賊を縛り首にしようと騒いでいたのに。
オペラだから筋の瑕疵をあげつらうつもりはないし、とにかく音楽が「ヴェリズモ」じゃない。歌手の誰かが『マーラーが聴こえる』と言ってたが、アルバン・ベルクやリヒャルト・シュトラウスの《エレクトラ》か?というようなとこさえあって実に刺激的。
《トスカ》《ラ・ボエーム》《蝶々》《トゥーランドット》しか知らずにプッチーニを毛嫌いしていたのは間違いでした。ごめんなさい。

1幕、ヒロインのミニー登場前にけっこうドラマが持ち上がる。金鉱の荒くれ坑夫達が故郷に帰りたいというホームシックの男にカンパしてやって馬車に乗せる。イカサマ賭博をした男、はじめは縛り首にと騒いでいたが結局、許してやる。
マカロニ・ウエスタン(あちらではスパゲッティ・ウエスタンと言ってる)なのにガン・ファイト、縛り首はなく殴り合いだけ。ミニーの登場はまるでカラミティ・ジェーンかアニー・オークレーだ。よそ者のイケメン、ディック・ジョンソンにミニーは惚れてしまうがジョンソンには裏がありそう。
カウフマン、ずいぶん太ってしまった。声も重く太くなってる。
2幕は、これがプッチーニ?という場面の連続。
まずミニーの人間性、彼女は町一番の人気者だが、ジョンソンに会って、自分が無教養でジョンソンには及びもつかないと卑下し、彼と並ぶような人間になりたい!と歌う。オペラのヒロインで知性と教養を磨いて人間性を向上させたいなんて歌う人がいますか?
盗賊のジョンソンは撃たれて怪我をしてミニーの家の屋根裏に匿ってもらう。そこへ保安官がやってきて彼を探して歩き廻る。見つからない。保安官は自分の手に血がついているのに気づく。駆け寄るミニーの白い服に天井から血が落ちてきて、服が血に染まっていく。ここの音楽が素晴らしい!バーナード・ハーマンかよ!っていうぐらいサスペンスフル。びっくりした。
さらにミニーはジョンソンを助けるために保安官とポーカーで勝負しようともちかけ、なんと八百長で勝つのだ!この八百長の場面の音楽もすごい。いつものプッチーニだと大仰にオケで盛り上げて歌手に歌い上げさせるが、むしろ心理的な緊張を高める音楽になっている。
3幕は暗く陰惨なムードが漂う。首吊り台が見えるし、ジョンソンの首には縄が巻かれる。結局は助かってミニーと命拾いしたジョンソンは去って行くという終わり方だが、この取ってつけたような終わり方は釈然としないなぁ。原作がそうなんだろうけど。ジョンソンはここでは盗みはしてないが、他の街ではやってるんでしょ?罪は償わないとダメだよ。
ただそんなことより、ここでは演出でもっと美しく感動を盛り上げて欲しかった。2人が去っていく舞台の奥、夜が明けて日が昇るように明るくすべきじゃないかなぁ?舞台が暗く陰惨なままっておかしいと思う。
でも歌手、オケ、演出、美術装置衣装、すべて充分に満足したし、プッチーニを評価できたのが最大の収穫だった。
ありがとう。

ジェルソミーナってジャスミンの花だったんだね。

@東銀座 東劇
留