小松屋たから

マイ・ブックショップの小松屋たからのレビュー・感想・評価

マイ・ブックショップ(2017年製作の映画)
4.0
おしゃれ映画と思いきや、かなり思想的な作品だった。「華氏451度」を出発点にして、わりと正面から文学や表現の自由の危機を描いている。

主人公のことをある有力者があそこまで目の敵にするのは、自身のコントロール下に無い書店、という存在が新しい文化、発想の拠点であり、それを受け入れると、町を支配してきた自分の地位、価値がいつか揺らぐことになる可能性を本能的に感じているからだろう。

その保守的で惰性的で右に倣え的な「本能」に人間は流されやすいから、いつの世も先鋭的な芸術や新しい試みは危機的状況におかれる。

この主人公は、闘いに敗れたように見えるが、未来は残した。しかし、その「未来」の現実はどうだろう。日本でも町の書店は姿を消しつつあり、身近な文化拠点は官製のハコものしか残っていかないかもしれない。それはかなり恐ろしいことなのだとこの映画から教えられたように感じた。

と、まあ、こんなことを書きつつ、自分も書店大好きながら、結局本をAmazonで購入していることも多かったりするから、偉そうなことは何も言えないけれど…

書籍や映画は、エンタメか、思想か、芸術か、人生そのものか、夢か。受け入れる側の姿勢や解釈については人それぞれの考え方、好き嫌いがあって良いと思うが、どんな作品であれ、まずは作り手や届けてくれる人は最大限リスペクトされるべきだし、守られなくてはならないことは間違いない。

自分の好きな本を選んで売る書店を持ちたい、好きな映画をかける映画館を持ちたい、という気持ちはきっと似ている。そしてそれを実現する志がある人は必ずどこかに存在する。その自由や気概が守られるかどうか、それは結局、我々読者、観客の勇気や覚悟に委ねられているのかもしれない。

決して明るい話でも無いし、ハッピーエンドとも言い難いので、積極的に勧めにくい作品ではあるけれど、映画好きの方なら一見の価値はあるかも?と思いました。