Shin

楽園のShinのレビュー・感想・評価

楽園(2019年製作の映画)
4.9
当初はスコアの平均も低いし、重くて暗そうだからスルーしようと思ってたんです。
でもいつも素晴らしいレヴューを書いておられるフォロワーのTOSHIさんと、開明獣さんが評価されていらっしゃったので、思い立って鑑賞してきました。

上映直前に僕の3つ隣の席に、若いお母さんと小学生くらいの2人の娘さんがポップコーンとドリンクを手に座られたんです。
僕はスクリーンの番号を間違えたんじゃないのかとか、こんな重そうな話なのに大丈夫かとハラハラしておりました。

しかし、話が進むにつれ、人の心配をしてる場合ではなくどんどん引き込まれていきます。

綾野剛演じる豪士や、佐藤浩市演じる善次郎に最初は感情移入して見ていました。彼らも同じ人間であり、あるきっかけから運命が狂い始め、もう自分ではどうしようもなくなることに、観ていてやるせなさが・・

しかし一方で、彼らを差別や村八分にし追い詰めてしまう人々は、ある意味観ている自分たちでもあるのではないかと思い始めます。

人生を振りかえった時、地元でガラクタを集めた家で暮らしている人を、偏見の目で見ていなかったか。
男なのに女性のような格好する人を変人扱いしていなかったか。
彼らにも深刻な事情があったかもしれないのにと、自分の記憶と重ねながら・・

人は誰しも予期せぬことで、被害者にも加害者にもなり得ることを改めて思い知らされます。

運命に翻弄されるヒロイン紡を、他のキャストでは考えられないのではと思わせる演技を見せてくれる杉咲花。
柄本明演じる五郎から『なぜお前だけが生きている』と言われた時の、紡の叫び声が忘れられません。

ラスト、紡が豪士と愛華ちゃんとの出会いを見るシーンでは、もう悲しいやら、苦しいやら、切ないやら、憐れみやら、怒りやら、様々な感情が沸き上がって、止めどなく涙が溢れ、嗚咽を抑えなければならない程、心が揺さぶられました。

人生においてどんな過酷なことがあろうとも、生きてさえすれば・・
原作にはいなかったという紡が希望を見せてくれました。
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