サマセット7

未知との遭遇 ファイナル・カット版のサマセット7のレビュー・感想・評価

4.2
監督は「JAWS」「ジュラシックパーク」などのスティーブン・スピルバーグ。
主演は「JAWS」「グッバイガール」のリチャード・ドレイファス。

砂漠で長年行方不明だった戦闘機が失踪当時のままの姿で発見される。
その後、謎の発光する飛行物体が各地で目撃され、同時に大規模な停電が発生。
発電所勤務で妻と3人の子供と暮らす男ロイ(ドレイファス)は、夜間に呼び出されて職場に向かうが、その途上で奇怪な体験をする。
一方、シングルマザーのジリアンの息子バリーは、家を訪れた何かと出会い、ジリアンもまた、飛行する物体を目撃するが…。

スピルバーグ監督の劇場向け映画としては3作品目(テレビ映画やドラマも含めれば6作品目)の作品。
アカデミー賞2部門受賞。
興行的にも大成功となり、JAWSでヒットメイカーの仲間入りをしたスピルバーグ監督の名声を確固たるとことした。
恥ずかしながら、今回初見。

ジャンルは、SFドラマとスリラーのミックス。
今作は異星人とのファーストコンタクトを描いたSFドラマとして言及されることが多い。
しかし、作品の大半を占めるのは、不可思議な現象や陰謀論的な国家機密に翻弄される人々を描いたスリラー的な描写である。
激突!、続・激突、JAWSの延長線上に考えると理解しやすい。
内容は完全に大人向けで、同じSFでも子供を主人公としたE.T.とは大きく作風が異なる。

序盤より、U.F.O.の出現とさまざまな不思議な現象が描かれる。
描写は当時の最新映像技術を使ってなされ、今見ても違和感はなく、スリルと興奮を楽しめる。
現象に遭遇した人々に共通するのは、畏怖とまた見たいという期待や憧憬だ。
未知なるものに出会った人は、良くも悪くも、決定的に変わってしまう。

メインのストーリーは、ロイがU.F.O.の出現とともに、謎のイメージに囚われていく点にある。
そのイメージに対して、ロイは強迫観念めいた執着をみせる。
その没頭ぶりに、やがて家族は彼の元を離れてしまう。
リチャード・ドレイファスの演技は鬼気迫っており、観客の目からも尋常でないものを感じる。
どこに向かうか分からないストーリーに、観客は惹きつけられずにいられない。

ロイの行動が単なる狂気に終わっていないのは、「未知の何かに導かれる」というモチーフに神聖なイメージがあるからだろう。
このモチーフは、古来より神託や霊感として神話、教典、物語に繰り返し使われてきた。
今作は、作中でも触れられる映画「十戒」の影響を受けたとされる。同様のモチーフを用いた他の作品でぱっと思いつくのは、スティーブン・キングの小説「ザ・スタンド」や、映画「フィールドオブドリームズ」あたりか。
この見地からは、ロイの行動は、俗世を捨てた巡礼の旅と見ることができる。

今作は、スピルバーグ監督が脚本も書いた作品であり、監督の作家性が最も発揮された作品とされる。
奇矯な行動をとって家族のもとを去る父親、子供を守ろうとする母親、両親の諍いに辟易して部屋に閉じこもる子供などは、両親の離婚というスピルバーグ監督自身の体験が下敷きになっている。
未知なるものに対する憧れや、政治機構に対する不信も、スピルバーグの作風と言えるだろう。
今作の結末には、当時の、子供のような心を失っていないスピルバーグの心象が反映されているようにも思う。

色々書いたが、やはり、今作の最大の見どころは、終盤の未知なるものとのコンタクトのシーンである。
2001年宇宙の旅の特撮担当ダグラス・トランブル、JAWSなどの音楽担当ジョン・ウィリアムズ、今作でアカデミー賞撮影賞を獲得した撮影ヴィルモス・ジグモンドといった名人たちが、人と異星人とのファーストコンタクトを、祝祭感豊かに描いている。
マザーシップの登場シーンや有名な五音と光でコンタクトを図るシーンは、映画の悦楽に満ちた名シーンであり、強く印象に残る。

今作は、スピルバーグが当時の彼のアイデア全てを注ぎ込んだような作品であり、テーマを絞るのは難しい。
あえて2つ挙げるなら、「異文化間の交流の難しさと可能性」と、「ここではないどこかへ旅立つことへの憧れ」ということになろうか。
ジリアンの苦難やバリーの純真さ、クロード博士の工夫と熱意は前者を、ロイの「巡礼の旅」は後者を体現しているように思う。

今作のラストは、特に印象的なものである。
同じ監督の同じく異星人との交流を描いた「E.T.」のラストと、対比して考えると興味深い。

今作は異星人とのハートフルな交流を目当てで観ると、期待を裏切られる。
異星人はいつまで経っても出て来ず、代わりにおじさんの奇矯な行動を延々と見せられ続けるという、地獄のような体験をすることになる。
また十戒がモチーフになっている点や、終盤の描写がセリフに頼らず、ほぼ映像と音楽によって表現される点など、ある程度能動的に読み込まないと、わけがわからないと感じる危険がある。
決して分かりやすい映画ではない、という意味でも大人向けと言えるかも知れない。

スピルバーグ監督の全てが詰まったSF映画の名作。
個人的に、「激突!」や「JAWS」と、「レイダース/失われたアーク」や「E.T.」の間に作風の違いを感じていたので、今作を観たことで架橋されたように感じた。