海

Girl/ガールの海のレビュー・感想・評価

Girl/ガール(2018年製作の映画)
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耳にこんなにも気持ち良い声で囁かれる少女の名前。ララ、ララ。音と光の織り成したこの美しい朝の光景が、わたしの中で息をひそめながら何度も何度もくりかえされる。涙や声を噛み殺し続けるララが、水を飲み、風を受ける時間が好きだった。 わたしが初めてピアスを開けたのは14歳の夏だった。その頃はもうほとんど中学校へ行ってなかったんだけど、夏休み明けの始業式だけは参加しろと半強制で連行された。式が終わって体育館から教室へ二列に並んで戻る途中、隣のクラスの先生がわたしの腕を掴んで怒った声で何か言った、耳どうしたのとか何それはとかそういった感じのこと。皆んながこっちを見た。後先考える暇もなく、咄嗟に走って列を抜けた。教室には戻らなかった。そのあと先生に死ぬほど怒られて、結局、絆創膏で隠したり樹脂ピアスに変えたりしてたら膿んでしまってその穴は潰れた。今年の二月、新しくピアスを開けた。ふと思い立ってのことだったけど、場所を選ぶとき、あのとき潰れた穴が左耳にしこりになって残っているのに気づいてわらった。わたしはずいぶん変わったと思う。今でこそ女である自分を心から愛してるけど、最近まで本当にわたしは、「普通の人」たちよりもっとずっと、自分の性について悩み苦しんでいた。わたしの体は女で、だけど表現して伝えたいのは男でも女でもあってそのどちらでもないことだってある。恋をする相手が異性だとはかぎらないし、恋をした相手にかならず性的に惹かれているともかぎらない。わたしは男の子が好きだから女の子なわけじゃないし、わたしは恋をしたからセックスがしたいわけじゃない、わたしは他の何かでいるよりも、いつもわたしでいたかった。たったそれだけのことが上手く言えなくてよく分からなくて、涙が止まらなかったあの沢山の夜が、どうかララの沢山の夜に、手と手みたいに重なってくださいと、願っていた。
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