ふじこ

グリーンブックのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

すごく良い映画だった。
こんな感じに、相性の悪そうな二人がだんだん打ち解けていく映画って良いよなあ〜幸せな気持ちをお裾分けしてくれた気分になる。

主人公のイタリア人トニーは学がなく、すぐに手を上げる粗暴さと黒人への偏見がある。
だが義理人情に厚く、どこかチャーミングな魅力があり愛妻家でもある。

もう一人の主人公ドクは博識で良識があり、非常に高潔な人物。自制心があり、理不尽な目にあっても騒ぎ立てることもしない。
素晴らしいピアノの腕と名声とお金がある。
だがどれだけ素晴らしい人物でも、黒人である。
たったそれだけで、今までどれだけの屈辱に耐えたのだろう。
劇中、侮辱された事で警察官に手を上げたトニーと一緒に投獄された彼は言う。
"彼を殴って何を得た?
暴力は敗北だ
品位を保つことが勝利をもたらすのだ"
彼の高潔な精神と、黒人である事の、人間である事の誇りが表されている。

全く正反対の彼らが旅や対話を通じてお互いへの理解を深め、トニーは彼のピアノに心酔し彼への人としての思い遣りを得る。
とりわけ印象に残る一つが、雨の日に警察から釈放された後。
黒人の食べ物も文化も歌手も知らないあんたよりよっぽど黒人みたいな生活をしている、と言うトニーにドクが激昂する。
城には住んでいてもたった一人、舞台を降りればその瞬間からただのニガーだ。
白人でも黒人でも男でもない自分は何者なんだ、と。
彼の気高い精神性の陰にある孤独や、日々繰り返される差別をあくまで紳士的に応対する内にある耐え難い恥辱に悶える様が悲しく、しかしここで映画を観ているこちらでのドクと言う人物像が完成する。

もう一つが、たった二ヶ月の出張なのに何度も愛する妻へ宛てる手紙をドクが代わりに書くシーン(直筆はトニーだけど)。
これが映画のラストシーンに響くとは。
まるで小学生のような拙い文章を何度も間違えながら綴るトニーと比べて、とてもロマンチックに大人の愛を語る文章を代筆したドク。
ラストシーンでクリスマスイヴにトニーの家を訪ねたドクを抱き締めながら、”手紙、ありがとう”とお互い微笑み合う。
妻ドロレスの善き人物像と共に非常に心が温まって微笑んで見終える事が出来る名シーン。

劇中トニーは様々なことをドクに咎められるが、結局持ってきてしまっていて、そしてそれを見抜いていたあのヒスイの石がまるで二人の旅の思い出の証みたいで良かったなぁ。盗みは良くないけど。

"寂しい時は 自分から先に手を打たなきゃ"
これに尽きる。


ただ残念だったのは、画面に出したクセにそっと触れるか触れないか、で流してしまったドクの性的志向はこのストーリー上で必要だったのか分からなかった。黒人でゲイであると言う二重の苦悩の重みを指したかったのだろうか。でもトニーも他の誰もその事に触れないし、その事でドクの人間性が問われる事もないのに宙ぶらりんだったなぁ。

2022 09 10 unext 再視聴
もう一回観るとより表情や台詞の端々に意識が届いて、2回くらい泣けてしまった。
マハーシャラ・アリの一見して上品そうな出で立ちと、反対にヴィゴ・モーテンセンの腕っ節で生きてきた感のある風貌が物語にぴったりでキャスティングも素晴らしい。

2023 07 29 unext 再々視聴
配信が終わる映画から順に観て行って、視聴済みは置いておくはずが そうか終わるのか~ と再生したが最後。
序盤からもう涙目で最後まで観終わってしまった。
ヴィゴ・モーテンセンって本当に良い年の取り方したよなあ。
差別されると分かっていて、北部では3倍稼げると分かっていて尚、南部を選んだ理由とか、相手の事を知らないからこそ差別的に振る舞うけれどいざどんな人間であるのか、尊敬に値する人物であるのか、徐々に外見や人種じゃない芯の部分である中身を知って敬意を払う様とか。
子供っぽいのに端々で大人の気遣いが出来るリップと、大人っぽいのに良い意味で大人に成りきれず(成ってはダメなのだろうけど)頑固で実は寂しがりなドクの、人を人として好ましく思う、愛おしいと思うことの大切さなんかがとても好きだ。

配信終了前に、普段映画を観ない夫に勧めてみたら少しだけ観たようで、"続きが気になっちゃった"と次の日はやく帰ってきた。
そうして"このピアニストの人演技うますぎない?"と言っていたので、その人は俳優さんだよと教えてあげた。無事感動したみたいで良かった。
ふじこ

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