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グリーンブックのHALのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
2.9
トニーが、黒人の業者が使ったグラスをゴミ箱に捨てるシーン。
このシーンが、頭から離れない。
これさえなければ、気持ちよく見終われたかもしれないのだけど。

私、根に持つタイプなので笑 このシーンを引きずってしまい、楽しめなかった…。
皆さんが絶賛している中に、低評価を放り込むのが、自分の性格が悪いだけな気がしてしまうけども。

コップのシーンで、彼はこれほどまでに黒人を嫌悪していることがわざわざ示されているのに、最後まで説明されずに、あるいは、どこで彼の差別意識が転換点を迎えたかわからずに、お友達になったから万事OK⭐︎とうやむやにして終わる。

ハリウッド映画では、黒人は白人を成長させるための道具とも揶揄される。まぁ、マイノリティがマジョリティにそう使われるのは、仕方ない側面もあるけれど、その成長の過程すら見せないんだからびびる。

これが10年前に作られていたら、友情の物語だね〜良い話だね〜で終わったかもしれない。しかし、リリースされた時代が悪かった。アメリカでたくさんの人が構造的差別に怒っている真っ只中に、こんなの出されたら、別の意味で泣けてしまう。

構造的差別に怒りを突きつけない、肌触りの良く、温かい物語は、そりゃ万人受けするだろう。とても楽で特権のある人たちが考えた物語(実話にしても)だなと。まさに差別問題を持ち出された時に、「自分には黒人の友達いるから、わかってるよ。自分は差別なんかしないよ」って言う人そのもののような作品。

ドクターシャーリーがぶち当たる差別の壁は、彼が持つ特権と金で解決できた。なんならトニーと友人になる機会すら、金で買えた。そんな彼の葛藤も微かに描かれはするものの、一瞬そのシーンを挟めば許されるだろう感がすごい。
こんな黒人、当時は数えるほどしかいなかったでしょう。でも観てる方は安心する。簡単に解決できるから。

同性との性行為で捕まるシーンも含めて、全てが、あらゆる差別問題の表面を撫でて終わってしまっている。娯楽大作だから仕方ない、で済まして良いのかな。大衆作品としての作り方は本当にうまいと思うけど、もっとできたことがあったはずで。同年の「ブラック・クランズマン」よりも、サラッと観れて、私みたいな怨念の塊ではない人々は、晴れやかな気分で眠れるのかな。

友情作品としては素晴しいのかもしれない。でもどうしても、あのガラスのコップを思い出して苦しく、悲しくなってしまう。本当は何も解決してないんじゃないか、そんな思いだけが残る作品だった。
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