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グリーンブックのrakanのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.5
白人系イタリア人の運転手トニーと一流黒人ピアニストのシャーリーの旅物語。1960年代のアメリカ南部の旅を通して、2人が心変わりしていく様子を描いている。

途中までトニー視点で物語が進むが、徐々にもう一人の主人公であるシャーリーにスポットが当たり、その複雑な人物像が明らかになっていく。ここが映画の核心部だ。

旅の冒頭でシャーリーとトニーに小冊子「グリーンブック」が手渡される。映画タイトルにもなっている小冊子の正体は「黒人のための旅行案内」だ。当時のアメリカ南部は黒人への差別意識がとても根強く、白人たちによる暴力やいじめが横行し、各州ではトイレやレストランに黒人禁止のルールが定まられていた。シャーリーがコンサートした会場では暖かく迎えてくれた支配人も、黒人ルールを厳密に要求する。悪気がなさそうにみえるのがやっかいだ。当時はあたりまえすぎて疑問にもならなかった。「グリーンブック」は、黒人の制限された世界をあらわし、ルートから外れればトラブルが起きることを暗示するキーアイテムになっている。

一流階級で育ったシャーリーは教養人で成功者のようだが、南部では白人に暴力をふるわれ、現地の黒人には揶揄される。どちらも理由は「黒人のくせに偉そう」だ。しかもある夜にこっそりと男漁りをしていたことで警察に補導され、ジェンダーとしてもマイノリティであることが判明する。黒人と白人のあいだ、男と女のあいだ。どのコミュニティにも属せない自分の存在にシャーリーは嘆き、南部でトラブルが起きるたびに苦しみは深まっていく。しかしトニーの自分らしく愉しんでいきようとする姿と、ひそかな優しさにふれていくことで、人間として愉しむ生き方を味わっていく。

シャーリーは人間の品格と芸術の奥深さを、トニーは人間としての自由を与え合うことで、2人のポジとネガが組み合わさり、負を抱えながらも成長する姿を観ていくことが物語の醍醐味になっている。

黒人差別という難問をとりあげながらも、魅力的な主人公2人を描いたことで、暗くなりすぎない爽やかな風が吹き抜けるような作品ができあがった。ラストも後味よし。すばらしい映画だった。
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