ロッツォ國友

グリーンブックのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.8
「どう考えても衛生的に問題がある…」
「知るか!美味いから食え」


学がなく、粗暴かつ素朴で賑やかな世界を生きてきたトニーと、
学があり、品位と格式のある静かな世界を生きてきたドクター・シャーリーの、
穏やかではないが心温まる2ヶ月の車旅。


今よりずっと人種差別の激しかった1960年代のアメリカ南部で、黒人の演奏家に雇われたイタリア系の白人が運転手を務めるという題材から、かなり壮絶な内容を想像しがちだし、実際キツい黒人差別にいくつも出くわすことになるのだが、それでありながら描写はことごとく静かで優しく、観ているこちらにも胸糞悪さや怒りの感情を残さない語り口になっている。

舞台設定やテーマには間違いなく人種差別が深く関わっているが、差別や差別者への憎悪感情をかき立てようという意図が無い。
むしろ寛容さと慈しみを促すような表現とすら思える。
なんだが不思議な映画体験。



マジメ君と不良に友情が芽生えるタイプの話自体はよくあるが、どちらかがどちらかに一方的に擦り寄ることなく、相互に理解し尊重し合う方向に話が進んでいるあたりが非常に洗練されたバランスだと感じたし、だからこそ本作は誰のどの視点に立っても不快な気分を味わうことはない、と思える。

また本作に登場する数々の差別者についても、行為の矮小さはあれど、それぞれの信条や狭い視野に閉じこもって生きているだけだと分かるし、根強い差別も小さな気づきと冷静な理解を経ることできっと乗り越えていけるのだという前向きなメッセージが感じられた。
現実に起きたことを通して差別とは何かを表現し、反差別的視点を観る者に促しながらも怒りの感情を煽らず、限りなく公平な表現に終始している。


ドクターは著名な演奏家として人々に敬意を表される一方、差別されることによる苦しみも同時に味わって生きているが、しかし時には彼も別の人種に対して全てを理解しているわけでは決してない。
差別する側に立っていたトニーも、町を出歩けば「イタリア系」として差別される側に回る。
しばしば乱暴な振る舞いをしてしまいながらも彼自身 人々の無理解から苦しめられ、口をつぐんでいる側面がある。
誰もが差別をする側とされる側に立たされるからこそ、公平な立ち居振る舞いと勇気が必要なのだろう。


この公平性・バランス感こそ、本作に漂う不思議な居心地の良さの正体なのではないか。
同情でもなければ復讐の心でもなく、互いを知り尊重し合うことをスタートラインに置いて、静かに描写を積み重ねている。
心が温まる。



また、デコボココンビの小さな歩み寄りから仲が良くなっていく描写の数々にも非常にほっこりさせられた。
2人の噛み合っているようで全然噛み合ってない会話が最高。劇場が暖かい笑いに包まれていましたな。

そして生きてきた世界は全く違えど、
愛情を込めて拙い手紙を書くトニーと、
詩情を込めて美しい音楽を奏でるドクターは、
本質的にどこか似ているようでもあり、それ故あの旅全てが愛おしく感じられる。



酷い差別から目を逸らさず、しかし人を信じ歩み寄ろうとさせるこのバランス感。
鮮烈とは言えないがいつまでも心に残っていきそうな明るさと優しさがある映画だった。

ビジュアル面でエグいシーンは皆無だし、差別の勉強がてら、社会科を学ぶ子どもも観れるんじゃないでしょうかね?


穏やかで良い映画でした。
帰りにフライドチキンを買いたいですねぇ
ごっつぁんしたぁ
ロッツォ國友

ロッツォ國友