tsuyo1980

グリーンブックのtsuyo1980のレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.4
結論から申し上げますと
とても良い映画でございました。
大きな山場がある訳でなく、非常に淡々とした展開。
けれども見終わった後に心が温かくなる。
人の心を動かす力を持っている映画が良い映画であるならば
この映画は「良い映画」の資格を備えています。

黒人ミュージシャンの運転手が60年代南部アメリカを旅する
というストーリーから「ドライビング・ミスデイジー」の
役割を逆にしたような感じかなと思いつつ見始めると
作中の人物描写がとても巧みなことにビックリ。

まず主人公のアラゴルン…じゃなかった、トニー・リップ。
冒頭のクラブ用心棒の場面で粗暴でちょっとずる賢い、
けれども家族を愛する人物であることを短いながらも
小気味良いエピソードを挟んでいきます。

一方のドン・シャーリーはエピソードを小出しにして
徐々にどんな人物かを明かしていく構成が上手い。

そしてこの作品で一番魅力的だったのが
トニーの奥さん・ドロレス。
序盤で家の修繕に来てくれた黒人作業員にレモネードを
振る舞いどんな人物にも分け隔て無く接する愛情に溢れた
人物であることを一瞬で理解させています。

60年代と言えばまだまだ黒人差別が根強かった時代に
偏見に囚われない対応ができるのは彼女が慈愛に満ちている証明。

その光景を遠目で見ていたトニーはドロレスの目を盗んで
黒人作業員が口をつけたグラスをゴミ箱に入れてしまいます。
つまりこの時点でトニーは黒人に対して差別心を持っている
ということを台詞ではなく行動で表現している。
これは映像だからできる表現で非常に上手い描写でした。

結局ドロレスがゴミ箱を開けてグラスを発見するも
捨てたことを責めたりせず「しょうがないわね」
という表情とともにグラスを回収していたのも
彼女の懐の大きさを表しています。

北部よりもさらに厳しい黒人差別に対する道中は
他の人が詳細に書いているでしょうから筆を譲りますが
物語のラスト、ドロレスがドン・シャーリーに言った台詞が
とても良くてこの長い旅を温かく締めくくってくれました。
この台詞を聞くためだけにこの映画を観ても良いと思いますよ。

さて、真面目な話はこれくらいにして、
トニー・リップ役のヴィゴ・モーテンセンについての邪推。
映画の中ではイタリア系という設定ですが
ヴィゴはどう見てもゲルマン系でラテン系には見えない。
(ヴィゴ本人はお父さんがデンマーク人)
ちょっとミスマッチじゃないかなぁ、と思って観てたら
最後に気が付いたのです。
これは「指輪物語」オマージュじゃないか!と。
ヴィゴ・モーテンセンと言えば何と言っても
「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルン!
力の指輪を捨てるために奮闘したあの名作3部作。
今回の「グリーンブック」では黒人に対する差別心を
南部アメリカに捨てて自宅に戻ってくるという展開。
アラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセンをキャスティング
した理由はこれだったのか!(錯乱)
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